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瞳
「なあ、おい」 「…んだよ」 「ああ、生きてたか」 「生きてるよ」 「一言も喋らないから、亡霊かと思ったよ」 「は。この世に未練はあっても、アンタにゃねえよ」 「…そうか」 「なんだよ」 「ん?」 「なに簡単にへこんでんだよ」 「別に、へこまされたつもりはないが」 「声が暗いつーんだよ。…まさか泣いてんじゃねえだろうな?」 「そんなわけないだろう」 今が昼なのか、夜なのか。 周りにどれだけ味方が残っているのか。或いは、敵がどれだけ潜伏しているのか。 「まあ、泣かれたとしてもわかんないんだけどさ」 「…どちらかといえば、鳴かせる方が得意だぞ?」 「なんの話だよ」 「今更だったか?君は特に念入りに、散々鳴かせてきたからな」 その濡れた感触に、開いたままの瞳を舌で撫でられたのだと知った。 「…やめろよ」 「やめない」 「ふざけてる場合かよ。もうちょっと緊張感持ったほうがいいぜ、アンタ」 幾度も幾度も熱く濡れた舌先が、瞳を、瞼を舐めあげていく。 「なあ…」 「なんだ?」 「もう、いいよ」 「なにが?」 「そんなことしたって、もう何も見えない」 まるで、親猫が仔猫を宥めるように。 そんな風に何度舌で指で愛されたって、瞑された瞳に光りが戻ることなど二度とはないだろう。 「俺を置いてけよ」 「何故?」 「足手まといになるのは、ごめんだ」 こんな敵地のど真ん中で、右も左もわからぬこの恐怖。 とてもじゃないが、自分が役に立つとは思えない。 「見えなくとも」 「なに」 「例え見えなくとも、ね」 「…大佐?」 「こうして、私を感じておいで」 「な、に…?」 「私は、君を連れていくから」 「え…?」 「君だけを感じて、連れていくから」 だからきっと最後まで、自分だけを感じてついてこい。と男は言った。 「言っただろう?」 耳元で、囁く声が愛撫に変わる。 「泣かせる方が得意なんだよ、私は」 そう言った男の声が、どうしようもないほど優しくて、 頬を辿る指先に、涙が零れ落ちたのを知る。 いつ果てるともわからぬ、戦場にて。 |