同じ歳でロイエド


「…で?どうすんの」
「あにが?」
いつもと同じ学校の帰り道、いつもと同じコンビニに寄って、いつもどおりに公園のベンチで肉まんを食べながら、ロイが答えた。
「手紙」
「ああ…、ってなあ?なんかお前、機嫌悪くないか?」
「別に。なんで俺が」
まあ、よくあることなんだろう。
下駄箱にラブレター、とか。



『あ』
放課後の昇降口で、声がハモった。
ロイが開けた下駄箱から、説明不要いかにもな風情のピンクの封筒がひらりと舞い落ちたからだ。
「…またか」
面倒そうにその封筒をつまみあげたロイの呟きを、聞き逃す俺ではない。
「またか、ってモテモテ君ぶりを自慢してんのか、てめえ」
「モテモテ君…って」
モテモテ君は引き続き面倒そうにそう言うと、封筒を無造作にもとあった場所、下駄箱の中にしまいこもうとしていた。
「…は?なにしてんの?」
「見なかったことにしてるんだ」
「ちょ、そういう問題か?つか、明日の朝、下駄箱開けたら早速にもお目にかかることになんだぜ、それ」
「…わかってるよ」
「どういう現実逃避だよ。つかさあ…」
「いつもはな」
「え?」
「いつもは、そこにあるゴミ箱に丸めて捨ててそれで終わるんだ。明日の朝もそうするさ」
「…おっ、まえー!」
「あ?」
「鬼か!?鬼だろ!つか、相手の子が可哀想すぎだ!」
「…なんで」
「なんで、って。…だってお前、精魂込めて書いたラブレターをさ、読まずにポイって、そらねえだろう」
「興味ないんだ。面倒なんだ。なのにわざわざ読まなきゃならんのか?そんなの俺の方がよほども可哀想だろうが」
そう言い放ったロイは、心底嘘偽りなく本気でそう思っているのだろう。冷えた感情のない目でピンクの封筒を見ていた。
「…ともかく、さ」
「ああ」
「せめて持って帰れよ。読まなくてもいいからさ」
そう言って下駄箱の中から封筒を取り出し渡した俺の手をロイはしばらくじっと見つめると、ふん、と曖昧な返事とともにズボンのケツポケットにそれをしまいこんだ。



持って帰れと言ったのは、他でもない俺自身なわけだが、その封筒の行方が、どうにも気になって仕方がない俺がいる。
別に気にする必要もないわけだからと思いつつも、道すがらロイのケツをじっと見つめてしまうほどには、やはりどうにも気になって。
いつもは捨てられていたらしい数々のラブレターの中から、厳選された…わけでもないが、運よくロイのケツポケットに収められた貴重な一枚なわけだし、それが二人の全ての始まりでした、ありがとうありがとう、あの時君が持って帰れとそう言ってくれたから…!とかそういう幸せ後日談にまで想像しちゃったりするくらいには、ラブレターの行方というよりはむしろ、今後ロイがとる行動が気になって仕方ない。
「…折角だしな」
「え?」
「読むだけでも、読んでみようかと思ってるよ」
「…えっ!」
「や…、なんでそこで驚くわけだ?」
「うん。なんでだろ…?」
本当だよ。なんで驚く必要があるんだ、俺。
ただ、こう。なんていうのか、こう。
例えば、ロイが手紙を読んで、途中飛ばして相手の子と付きあう、とかいう事態になったとして。
そしたら、今までは毎日一緒に登下校していたのは俺だったりしたわけだけど、それもきっと彼女に代わって、こうしてベンチで肉まん食ってるロイの隣で、ピザまん食ったりするのも多分、彼女に代わって、休みの日にゲームやったり、買い物したり、飯食いに行ったり、映画みたりとかそういうの全部が、彼女に代わってしまったりするのだろうか。
ものすごく居心地のいいこの場所を、彼女とやらに明け渡さなければならないのだろうか。
エドワードは確かに不機嫌だった。
ラブレターの知らない誰かが、自分からそういうロイを全部持っていってしまう気がして焦っていた。
「…エド、お前さ…」
「な、なに」
呼ばれて我に返ったところで、妙に脱力しているロイと目が合った。
「そこまでわかっていながら、まるで自覚がないんだな…」
「なにが」
「…全部口から洩れてたぞ…。お前が考えてたこと、俺に丸聞こえだ」
「う、うっそ…!?」
「本当に、呆れる。…お前の鈍さと、自分の忍耐強さにな」
ロイはそう言って徐に立ち上がると、肉まんについていたよれよれの紙と、ケツポケットに収めていた手紙をぐしゃりと纏めて、近くのゴミ箱に放り込んだ。
「あ…、なあ、読まねえ…の?」
「読まないよ。興味ないって言っただろ」
「でも、さ…」
「…俺が唯一、興味があるのは」
ロイが真っ直ぐに俺を見つめている。今まで見たこともない真剣な眼差しで、俺だけを。
これが俺だけに向けられるものだったらいいと思った。これからも、この先も。
「エドワード。お前にだ」
知らなかっただろ?
そう言って、ロイが笑った。








あまりの違和感に心が禿げそうになる。





モドル