業火



「っ!…なあ?」
「ん…?」
「皆、気がついたかな…っ、あ…」
「さあ、どうだろうね…?」

初詣客で賑わう境内の裏手、人気のない茂みの奥で、エドは大木の幹にしがみつきながら腰を突き出し、身の内側に滾る熱を持て余すようにしながら、身を捩った。

「エド…?」
「うん、いいよ。…っああ、んっ」
「…っ」

境内の喧騒を遠く意識の外で聞き流し、光さえ届かない闇夜の中で、ただ耳に入るのは、肉がぶつかり淫が交わる湿った音に、時折洩れる嬌声交じりの互いの荒い息遣い。

「俺たちのこと…っ、探しに…くるかなぁ…っ」
「さあ、どうだろうね…?」
「母さまたち、きっと俺のこと、怒って…っんあっ、やぁ…」

私の結婚が決まった夜、年越しの宵に紛れて二人、荷物も持たずに、そっと屋敷を抜け出した。

今日から君の弟だ、と。
そう言われた10年前、養子として迎え入れられたエドを初めて見たあの日から、ずっと特別な存在だった。
懐かれれば懐かれるほど、愛しさが増せば増すほど、弟だとは思えずに、無邪気に笑顔を見せるエドを見るたび、罪悪感に駆られ続けた。
自分の弟だと人に紹介をするたび感じる、その違和感。
血が繋がっていないという事実がそうさせるのだと思っていた。
弟だというならば、どうしてそこに欲が生まれる?
抱きたい、犯したい。自分ひとりのものにしてしまいたい。
湧き上がる衝動は、どれも昏い欲に塗れていたというのに。

「あっ、あ…。ロイ、ロイ…!」
「っは、エド…」

目の前で腰を揺すってよがりなくエドの姿に幼い日、私を『兄様』と呼んでいた頃の面影はない。
いつからか、エドは私を兄とは呼ばなくなっていた。
エドは知らない。
私たちが本当は半分だけ血を分けた、本当の兄弟だということを。

「ロイ、ロイ。も、だめ。俺、出る…ッ」
「ああ、いいよ…。いかせてあげよう」
「だめ…ッ!だめ、ロイも…一緒、っ!」
「ああ…。一緒に…」

深く突き上げ、掴んでいた指先からエドを開放すると、一際高く嬌声を上げ、エドが身を震わせた。







「…あったかい」
「んん?」

火照る身体を背後から抱き締めれば、エドが甘えたように身体を摺り寄せる。

「あったかいよ、ロイ。中も外もあったかい」
「…中?」
「うん、俺の中。ロイのがまだ中にある…」
「…いやらしい子だ」

ちゅ、と音を立てて唇に接吻れば、エドは擽ったそうに微笑いながら、身を捩った。

「ねえ…」
「ん?」
「これから、何処に行こう?」
「ああ、そうだね…。何処に行こうか」
「俺、南に行きたいな。あったかいとこ」
「南か。いいね。君は寒がりだし」
「うん。…でもね」
「ん?」
「何処でもいいんだ、本当は。北でも西でも東でも」
「北でも?」
「うん。いいよ、北でも。ロイが一緒なら何処でもいい」
「エド…」
「ロイと一緒なら、何処でも行く」

エドはそう言うと、幸せそうにうっとりと微笑んだ。


北でも、西でも、東でも。可憐に花咲く、南へも。
二人で一緒に何処までも行こう。
繋いだ手を離さずに、二人でずっと何処までも行こう。
行き着く先は知っている。
手に手をとって、奈落に堕ちて、その先へ。
身を焼き尽くすこの恋の業火に比べれば、地獄の業火も撫でるに等しい熾火だろう。







2006年正月。姫はじめの心意気。




モドル