彼が託したその手紙には、上質な紙で折りこまれたオフホワイトの封筒に、赤い蝋を溶かした封印、慎重に糊付けられて、ほんの僅かに歪んだ紙面、見慣れた文字が律儀に並んで、俺の名前が記されていた。
机の引き出しを無造作に開け、ペーパーナイフを取り出して、閉じられた封を開く。
封筒と揃いのオフホワイトの便箋が9枚、灯した明かりの下、光の加減でちらちらと織込まれた銀糸が煌めき、なんとも彼らしい品だと思った。

『親愛なる エドワード・エルリック様』

そんなありきたりの一文で始まるその手紙には、後に続くはずの文章が記されていなかった。
透かしても炙っても、その後に続くはずの文章はどこにも記されてはいなかった。
「相変わらず、奇怪な…」
戸惑う気持ちを持て余しながら、彼から届いた白紙の手紙を手にして途方に暮れる。
しばらくじっと眺めて気がついた、便箋の右隅に小さくナンバーが振られている。
一枚に一つずつ記されたナンバーは11から始まり、19で終わっていた。
シリアルナンバーなのだろうか。それにしても、随分と中途半端な数字から始まっている。
目を便箋に近づけて、食い入るように見つめる。
確かに11と書かれた筆跡は彼のもので、その脇に小さく、本当に目を凝らさなければ見えないほどに小さく書かれた文字を見つけ愕然とした。

『11 years old』

次々と便箋を捲って数字の隣の文字を確認していく。
「12歳、13歳。14、15、16、17、18…19歳」
全ての便箋に割り振られた数字の隣には、年齢を示す文字が記されていた。
「11歳…」
禁忌を犯し、初めて彼、ロイ・マスタングに出会った歳。

「…だから、何だってんだ」
何も書かれていない便箋を見つめ、記憶の渦に飲み込まれそうになる。
「わかりづれーんだよ、てめえ」
失くしたものを取り戻すために始めた日々は、彼と縁を結び深めた日々でもあった。
その日々は白い便箋に文字を乗せ、言葉で語りつくすにはあまりにも。
そのひとつひとつは、彼と二人で静かにそっと想いを紡いで織り上げた、何より大事で大切な。ひとつひとつ、そのすべて。
「ったく、最後までキザな真似…」


どんな言葉よりも雄弁な、白紙の手紙を握り締め、エドは天を仰いで瞳を閉じた。



見知らぬ土地の戦場で、溢れんばかりの想いを綴り、焔と消えた彼から届いた、 長い長い、その手紙。



彼から届いた、長い手紙






冬に書いた日記小話から。





モドル