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君の。
今宵の月の冴え冴えとした美しさに惹かれるように街に出た。 冬空に星が瞬いている。 それはまるで、点滅する巨大なイルミネーション、真冬の蛍。 真夜中すぎの凛とした空気を胸いっぱいに吸い込んで、青く冷たい風の中を泳ぎながらあてもなく歩き続ける。 いくつの街角を曲がって、細く続く裏通りに差し掛かったところで、見知った影を見つけた。 長めの髪を一つに束ね、つむじに癖が逆らうものか、髪が一房ピコリと上に立ったシルエット。 偶然見つけた小さな影は、点滅を繰り返す街灯の脇から幼い仕草で、ひょこりと顔を覗かせていた。 「…鋼の?」 その影は、不意に呼び止めた私の声に驚いたように一瞬身を竦めたが、私の姿をみとめたらしく、小さくコクコクと頷いている。 「鋼の。こんなところで何をしている?」 一歩近づけば一歩退く。どうやら今夜の彼は、普段と違って幾分シャイであるようだ。 「鋼の?……ああ、そうなのか」 近づけば近づくほどに、するりするりと退いていく、それは正確には鋼のではなかった。 「君は…、逃げ出してきたのかね?」 途端に首をフルフルと横に振る。 「なに。まさか、置いていかれたのか?」 ブンブンブン。 折れそうなほどに強く首を幾度も縦に振ると、困ったような仕草で首を傾げている。 「…信じられんな。自分の『影』を忘れていく慌て者がいるなんて!」 驚きのあまり、思わず声を荒げてしまう。 はっとして『鋼の』を見遣れば、しゅんと項垂れ、途方に暮れているようだ。 本来であれば、『鋼の』の本体を連れてきて、ぎゅうぎゅうと『鋼の』を押し付けてやれば済むことなのだが、あいにくとあの子は昨日の夕暮れに、汽車に乗って旅立って行ってしまった。 「…こうなったら仕方がない。君の本意ではないかもしれないが、私の影とともに付いてくるといい」 私の提案に『鋼の』は弾かれたように顔を上げると、嬉しげにコクコクと幾度も頷いた。 本体よりも素直にできているらしい『鋼の』は、おずおずと私の影に寄り添うと、そのまま私の後ろから離れることなく付いてきた。 近く『鋼の』の本体から、影を失くしたと慌てて連絡が入るのだろうと思うのだが、いつの間にだか仲良くなった、私の『影』と手を繋いで寄り添い歩く『鋼の』の、ふたりの仲を裂いてしまうのはあまりに忍びないので、いつかあの子が帰るその日まで、二つの影を連れて歩いていようと思う。 |