火傷しました。



執務室に行ったとき、机の前にアンタがいなくて、アレ?って妙な気持ちになってさ、変な感じだ、落ち着かねえ。ってソワソワしてたら、中尉がはい。ってカップを俺に手渡してくれたんだ。
ホカホカと湯気のたったカップの中身は、ホットレモネードだったんだけどね。
俺はそれを受け取りながら、ありがとう、ってお礼を言って、それからやっぱり、んんん?って思ってて。
ソファに座って、両手で持ったカップからレモネードを一口飲んだら、胸のあたりが丸くほこっと温かくなった。
ねー、中尉。大佐がいねーよー。って言ったらさ、それを飲み終わる頃には会えると思うわよ、って中尉が笑ってそう言うからさ。

「そう言うから?」
「うん」
「それで一気飲みをしたというのか、君は」
「うん」
「そんな理由で舌に火傷をしたと」
「うん」
「だからお前は子供だというんだ」

そんなことを言われても。
飲めばアンタが帰ってくるような気がしちゃったんだし、そこはやっぱり男らしくガブッと飲んで、そしたらまさか、あんなに熱いと思わなかったし。
それに、俺がソワソワしてたのが、きっと中尉にはバレバレだったんだろうなあ、ってさ。
…急に恥ずかしくなったから。

なあ、大佐。
ここにくればアンタがいるのは当たり前だと俺はいつも思ってて、だから今日みたいにアンタの姿が見えないと、俺はなんでかすげえ妙な気持ちになるよ。
アンタの顔を見るまでさ、やあ鋼の。っていつもと同じ声を耳にするまで、俺はなんでかずっとソワソワしちゃうんだよ。
顔を見て、声を聞いて、だからなんだと言うわけでもなんだけどね。
よしよし。って思うだけなんだけどね。
ああ、大佐だ。よしよし。って本当にそう思うだけなんだけど。

なあ、大佐。
俺は、アンタが好きじゃんか。
だから、アンタの顔とか見れたら嬉しいし、声を聞いたら安心する。
よしよし。って思ってニコニコ宿に戻ってさ、なのに、夜になったら、なんでかちょっと泣きたくなったりするんだよ。
アンタは今頃なにしてんだろうなあ、って泣きたくなったりするんだよ。
朝になったら、そういうこと全部忘れちゃって、俺はまたニコニコここに来るのだけれど。
そしてアンタの顔を見て、安心したりもするのだけれど。
アンタが側にいると思うと、いつでも会えるところにいると思うと、それはますます悪化しちゃって、なんだよ、新種の病気かよ。って思うけど。
もしかして、これが俗にいう恋の病ってやつなのか?って思ったりもするんだけど、誰かを好きになったのがこれが初めてなもんだから、俺にはよくわかんないんだよ。

なあ、大佐。
大佐は誰かを好きになったことがある?
誰かのことを好きになったら、大佐もそんな風になる?
やっぱり俺は子供なのかなあ。そんなこともわからない。
大人になったら治るのかなあ。不安になったりしなくなるかな。

「――治らないよ」
「え?」
「大人になっても治らない。死ぬまで続く、人の病だ」
「…大佐もなる?」
「なるよ」
「そんな風には見えねえな」
「そんな風に見せないだけだ」
「大人だから?」
「ん?」
「大人だから、見せねえの?」
「そうだね。大人はなにかと…不自由だから」
それでも、私も同じだよ。
朝になって、夜になって、泣いて笑って、不安になって。
そしてそれから、安心するんだ。

大佐はそう言って、静かに笑った。

 

「鋼の」
「うん?」
「舌、見せてごらん?」
「…む」
口を開けて、火傷をした舌をべっと大佐に見せつける。
「ああ…。赤く腫れてるな」
「むむ」
大佐がほんの僅か眉を顰めてそう呟く。
「痛いだろう」
「む!」
実はヒリヒリかなり痛い。
「…舐めれば少しは楽になるかな?」
「む?」
薄い膜が剥げてしまったように赤く腫れ、敏感になった舌先を、包みこむように唇で食まれた。
軽く吸われて、舌先でちゅ、と小さく音が鳴る。
大佐はビックリして目を見開いた俺に視線を合わせると、絡まる視線と同じ強さで、震える俺の舌先に、その舌先を絡ませた。


朝になって、夜になって、泣いて笑って、不安になって。
そしてそれから、安心するのが、大佐も俺と同じなら。
俺は、大佐のことが好きじゃんか。
だから、万が一にも、もしかして。
大佐も俺と同じように、俺のことが好きだったりするんじゃねえのかと、夢のようにぼんやり思った。


触れ合う先から伝わる鼓動に身体が震え、近づく距離に涙が溢れた、それが二人のすべてのはじまり。









モドル