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好きだって、言ったじゃん?
簡単だった。 電話一本で呼び出された中央司令部、俺は一つの指令を受けた。 いかにも『賢者の石関連です』的な内容のそれは、いざ蓋を開けてみれば全く関係ない、ただのお家騒動だった。 ――まーた、騙されたよ…! したり顔でほくそ笑む、大佐の顔がもっそり浮かんだ。 てんめ、また騙しやがったな!ふっざけんなよ、石なんて全然関係ないじゃん! ぎゃーぎゃーぎゃーと電話をかければ、受話器の向こう涼しげな大佐の声がする。 「放置すれば面倒なことになりそうだったのでね。なので君に行ってもらった。なにか問題があったかな?」 「大ありだ!俺が一体何のためにこんな山奥まできたと思ってんだよ、冗談じゃねえぞ!?」 「何のため?私のためだよ」 「…なにっ!?」 「君がいけば事態は早々に収まるだろうとわかっていた。だから君に行ってもらった」 「アンタなあ…!」 「優秀な部下を持てたことを、私は心から誇りに思うよ」 「――もう、いい!!」 叩き付けるように、電話をきった。 …それでもこうやって律儀に報告書を書いてるあたり、俺も本当に人がいいというか、そうだなぁ、全くもって優秀だと自分で思うよ。 報告するにも及ばない、どうでもよさげな騒動だった。 余白だらけの報告書を睨みつける。 こうして書いた報告書だって、どうせまた『薄っ!なにこれ、ぺらっぺらっ!』とかってアイツは文句をつけるんだろう。 余白か…。埋めとく? 折角だから、てめえの悪口で埋め尽くしてやる。 * 「大佐、エドワード君から報告書が届いております」 「報告書だけかね?もう随分とあの子らの姿をみていないような気がするが」 「大佐がご自身で、彼らを東に向わせたのだったと記憶しておりますが?」 「…相変わらずの素晴らしい記憶力だな、中尉」 「恐れ入ります」 封書を開いて、報告書のペイジを捲る。 「本当にわかりやすいな、あの子はまったく…」 電話を切った直後に書き始めたのだろう。 巨大な文字が、怒り狂って羅列している。 顛末が記された報告書の末尾に書かれた文字に目を疑った。 『追伸:大佐の悪口』 「…はあ?」 『余白を使って、大佐の悪口を書こうと思います』 事の仔細が記された箇所よりも、数段緻密に書き込まれている行に書かれた言葉は、あまりにダイレクトなものだった。 『一・あんな丸顔童顔で29歳を騙っている。 二・そんであの童顔で、にっこり笑って女を騙す。 三・ついでに俺のことまで騙した。』 「…オイオイオイオイ」 『大佐は平気で俺を騙します。今回だって、それっぽいことを匂わせて俺たちを山奥にまで行かせるために、嘘ついた。 そうならそうと最初から言ってくれたら俺、ちゃんと行ったのに。なのに騙した。嘘ついた。』 ペイジを捲った。 余白を使って、と書かれた冒頭文を無視するように、次第に小さくなる文字は、次のペイジにまで続いていた。 『石のこと以外だって、俺は大佐の言うことを一々丸ごと信じちゃうから、いつだって簡単に騙される。 大佐はそれを知っているから、面白がって俺のことを簡単に騙す。すぐに嘘つく。 そんなんばっかだから、俺は大佐の言うことをどこまで本気にしたらいいのか、全然わかんない。 俺のこと、好きだって言ったじゃん?あれは本当?あれも嘘? 好きだって、言ったじゃん? 俺のは本当で本気なんだから、嘘つくなよ。騙すなよ。 俺、本気にするからさ。大佐、嘘ついちゃダメじゃん。』 「あ…」 「――大佐?どうなされました?」 「紙とペンを…」 「机の上に置かれているかと思いますが…」 「そうか、そうだな。…いや、電話」 「大佐…?」 「違うな、そうじゃない。…中尉、スケジュールの調整をしてくれないか。それと、チケットの手配を」 「――東、ですか?」 「ああ。…書類が不備だらけでね。これでは上に提出できない」 「かしこまりました。早急に手配します」 どこまでも有能な腹心の部下は、敬礼の形を一つ示して部屋を出て行った。 「――…まいったな」 どんな気持ちでこれを書いていたのだろう。 大佐、嘘ついちゃダメじゃん。…か。 報告書を丁寧に折り曲げ、胸元のポケットにしまい込む。 コートを羽織り、身支度を整え、足早に部屋を後にした。 誠心誠意、心を尽くして、君に会いに行くために。 |