春なので。



足りない、足りない、絶対的に足りないものが、それが何かを知っているから、今俺はセントラルに向かう汽車の中にいるわけで。
駅に着いたら、まずは走って司令部に向かうだろうなんてことは、多分アルにもバレバレで「僕は宿の手配をしてからいくから、兄さん先に行っててね」なんていわれた日には、「ああ、うん。よろしく」って台詞の他になんと言えばよかったろう。
窓から見える風景は、いつまでたっても緑の続く田園風景。
本当は苦手な都会の雑多な風景を、こんなにも待ち遠しく感じるなんて、きっと俺はどうかしている。

会いたくて、会いたくて、どうにも会いたかったから、遠い町から汽車に揺られてわざわざ戻ってきたというのに。
アンタは別段驚きもせず「やあ、鋼の」なんて平たい声で、まるで興味がなさそうな顔をするから、とりわけ喜んでほしかったわけでも嬉しそうな顔をしてほしかったわけでもなかったけれど、俺は途端に悲しくなった。
会いたかったのは俺のほうだし、別にそれをアンタに望んでいるわけではないけど、やっぱり会いたいとか思っているのは俺だけなのかって思ったら、それって結構、相当きつい。

「鋼の?」
「…うん」
「ぼーっとしてるが。どうかしたのか?」
「…いや、別に」
「そうか?では…」

では、とりあえず報告を聞かせてもらおうか。時間がないんだ、手短に話せ。
続く台詞が容易に想像できるほどには、そこそこ長い付き合いだし、できれば今はそういういかにも業務連絡チックな言葉は聞きたくないって、これは俺の勝手な言い分なのはわかっているけど、3ヶ月も会ってないのに、やっと会えたと思ったのに、にこりともせずにそんな風に言われたら、誰だってちょっとはカチンとくるだろ。だって仮にも俺たちは。

「…大佐」
「ん?なん…うぉ!?」

なんとなく腹がたったので、椅子に座った大佐の元に歩み寄り、椅子ごとヤツをひっくり返した。

「いきなり何を…って。は!?ちょっと待て、なにをする気だ!」
「…いや、別に」

大佐のズボンのジッパーを徐に下ろし始めると、慌てた声で制止がかかる。
別に襲うつもりなんて毛頭ないけど、ただちょっと。
勢いよく引き下ろしたパンツの中で、驚愕に打ち震える子ねずみさながら身を竦ませた大佐のチ●コをわし掴み。

「…ぷ」
「〜〜っ!!…ひ、人を勝手に剥いておいて笑うか!?お前…!」
「若干くたり気味みたいだけど、元気にしてた?」
「どこに向かって話しかけてるんだ…」
「え、俺?俺はねえ…。そこそこ元気」
「…おい?」
「あ、わかる?そうそう、そうなんだよなー」
「おい…」
「うん。へえ?まじで?うわー、それちょっと見たかったな」
「おい、鋼の」
「ううん。そんなことないよ?」
「…おい、コラ。鋼の」

夢中で話をしていたら、大佐に襟首を掴まれて持ち上げられた。

「…んだよ」
「誰となんの会話をしているんだ?君は」
「大佐のチ●コと四方山話をしてるんだ、俺は」
「あのな…」
「話してるだけだろ。邪魔すんなよ」
「――わかった。わかったから」
「なにが」
「話をするなら私としてくれ。ないがしろにするなよ」
「・・・」
「元気にしてたか?」
「・・・そこそこ元気だったよ」
「そうか。それはよかった。…おかえり、鋼の」
「――…うん。ただいま」

おかえり、鋼の。会いたかったよ。会いたかった。君に話したいことが沢山あるんだ。
大佐は俺の頭を抱きこみながらそう言った。

春なので。人恋しくて帰ってきました。
春なので。アンタが恋しくて帰ってきました。

「春なので?」
「…そうだよ」
「そうか。ならば私は一年中が春かも知れん」
「あ?」
「いつだって、君が恋しいよ」

どんなときでも、いつだって。
大佐はそう言って、髪から花の匂いがするねとそう言って、それはそれは嬉しそうに笑った。

――春なので。








子ねずみだとか思ってません。


モドル