le commencement



エドワード・エルリックが執務室に訪れたのは、ようやく家に帰れる目途が立った、午後10時。
外には雨が降っていて、駆け込んだ少年の身体が雨に濡れている。
「あー・・・。酷い目にあった」
「・・・やあ、鋼の」
「久しぶり、大佐。外、凄い雨だぜ?知ってる?」
足元の床に大きな水溜りを作りながら、少年が濡れた服を脱ごうと躍起になっている。
「これだけ大きな雨音がしていれば、部屋の中にいたってわかる・・・」
これ以上、部屋中を濡らされては適わない。
タオルをとり出して少年をに手渡そうと振り返り、硬直した。
「・・・お、まえ・・・」
「ん?なに?」
既に半裸になっている少年の、露になった白い胸元が丸く膨みを帯びている。
「―――な・・・、え?」
それは明かに見覚えのある、女性特有の――。
「大佐?どした?つーか、タオルくれ?」
不思議そうな顔をしながら、少年だとばかり思っていたエドワードがこちらに近づいてくる。
歩く度に、胸元が僅かに揺れて。
そこから目を逸らせないまま、近づく気配に思わず後ずさりしてしまった。
「待て。ちょ、え?・・・ええっ?」
「大佐・・・?タオル・・・」
「お、おま・・・ッ」
「うん?」
「お、おおお前っ、おお、おん・・・な?」
「あー、うん」
「・・・ッ!聞いてない!」
「うん、言ってない」
しれっと当然のような顔をして、窓際まで追い込まれた腕からするりとタオルを抜き取っていく。
無造作に髪を解いて、タオルでガシガシ拭き取っている。
「―――知らなかった・・・」
「まあ、そうだろうな。っていうか、アンタじろじろ見過ぎ」
そう言われて、ようやく少年の――、いや、少女の白い肌に不躾なまでの視線を浴びせつづけていたことに気づいた。
「あ、いや。・・・すまん」
慌てて、目を逸らして俯いた。
自分でもそうとわかるほど、声がうろたえている。
くすり。と小さな笑い声が聞こえて顔を上げれば、思いのほか近くに少女の顔を見つけて、再び動揺した。
「へーんなの。大佐ってば、面白い」
少年のような粗野な仕草にそぐわぬ、柔らかなその肢体。
――どうして今まで、気がつかなかった?
心の中で己の失態に毒づきながら、アンバランスな目の前の少女の存在に、くらりと甘い眩暈を覚えた。