|
とても似ている、僕たちは
今日はサーカスを見に行きました。 象が曲芸をしています。 大きな身体を小さく丸めて、更に小さな小さなボールの上に、四つの脚を並べて立とうとしています。 一回目。象は失敗してしまいました。 あんな小さなボールの上に、あんな大きな象が乗るなんて、きっと無理なことなのです。 観客席から、失望の声と溜息があがります。 象遣いが、手に持っていた鞭で象のお尻をパシリパシリと叩きました。 よくよく見ると、象のお尻には無数の鞭の跡が残っていました。 かわいそうな象。 好きでもない芸をやらされて、きっと毎日鞭で叩かれているのでしょう。 昨日の夜は、口に出された苦い液を、どうしても全部飲み干すことが出来なくて、シーツの上に吐きこぼしてしまいました。 何度も教えたはずなのに。どうしてそれすら出来ないんだ。 そう言われて、パシリパシリと何度も身体を叩かれました。 だから僕の身体には、象と同じお揃いの、痣が今も残っています。 かわいそうな僕。 きっと次は上手になるから。苦手な味も好きになるから。そうやって朝までずっと練習させられました。 二回目。今度は上手くいきました。 小さなボールにフラフラと、それでも象は立っています。 一際大きくパオンと鳴けば、観客席からどよめきに似た拍手と歓声が沸きおこりました。 象遣いが大きく手を振り、歓声に応えています。 僕は夢中で手を叩きました。 まるでそれが自分のことのように、嬉しくてたまらなかったのです。 来る日も来る日も、芸をやらされ。毎日毎日、鞭で叩かれ。 それでも象が、誇らしげにパオンと鳴くのは、 ご褒美のりんごが欲しいから? 観客たちの歓声が嬉しいから? 多分きっと、そうじゃない。 象遣いに誉めてもらいたいから。 よくやったと頭を撫でてもらいたいから。 だから象は今日もボールの上に立つのです。 パオンパオンと声高らかに。 ただ一人、隣に立つ貴方のために。 かわいそうな象。 かわいそうな僕。 僕らはきっと、とてもよく似ている。 でもそれを知っているのは、この大勢いる人の中で、 君と僕の二人だけなのかもしれないね。 象の芸が終りました。 象が舞台の上から去っていきます。 象遣いが、象の背中を撫でました。 象はとても嬉しげに、パオンと一声鳴きました。 「楽しかったかい?」 「うん。とても」 にっこり笑ってそう言うと、大佐は頭を撫でてくれました。 しあわせな象。 しあわせな僕。 とてもしあわせな、僕たちは。 |