「なあ…。大丈夫なのかよ?」
「なにがだね」
「さっきのあれさ。あいつら、アンタよか上官なんじゃねえの…?」
「まあ、確かに一人はそうだな」
知ったことか。
まるで吐き捨てるようにそう言いながら、男は振り向きもせず前だけを見て歩いている。



「謝罪をしていただきたいのですがね」
穏やかにもみえる無表情のままで、男はそう言いきった。
「…な、なにを」
「言い訳は結構。私はただ、彼に対して謝罪をしていただきたいと、そうお願いしているだけですよ」
慇懃な態度で綴られる言葉の奥に、確かに殺気を纏わりつかせて、男は静かにそう言った。
何が彼の怒りに火をつけてしまったのか。
多分、先に聞こえた会話だろうとわかってはいるのだが、どうにも思考が追いつかない。
こんなに怒りを顕わにするほどの内容ではなかったはずだ。
――少なくとも、彼にとっては。
「大佐…」
「そんな無理をお願いしているわけではないでしょう。ただ、謝って欲しいとそう言っているだけですよ」
もう、いいから。とそう続けようとした言葉の先は、いっそ清清しいほどに無視された。
なんでもいいから謝ってはくれないだろうか。この場凌ぎで構わない。
すっかり気圧されて萎縮してしまった哀れな二人組を見ながら、そう思う。
それを自分が願うのは、どうにも見当違いな気もするのだが、そうでもしなければこの男は本気で相手を地に平伏させてしまいかねない。今にも指先ひとつ焔を熾してしまわんばかりに。
まさか殺しはしまいと思うが、それすら疑ってしまいそうなほどに、静かな殺気が男の身体中、溢れ出さんばかりに纏わりついている。
「よう、エド!」
「…え?あ、中佐…」
静まりかえった室内の、扉あたりから聞き覚えのある声に呼ばれて振り向いた。
ヒューズ中佐だ。
いつもと同じ飄々とした態度のままに、こちらに向かって右手をヒラヒラさせている。
――助かった。
正直、救われた思いがする。
「なぁにしてんだ?お前」
ん?なになに?なにかあったか?
好奇心に満ち溢れた顔をして、動きを止めた人波をかき分けながら、中佐がこちらに向かってくる。
「えらい注目集めてんぞ。面白そうだから、俺も加えろ」
そう言いながら、頭をわしわし撫でられた。
反射的に中佐の顔を仰ぎ見て、気がついた。
面白そうに顔を歪めて笑っているのに、その瞳の奥が笑っていない。
眇められた視線の先は、ただ一点、大佐だけを見つめていた。
中佐を見つめかえした大佐から、彼を取り巻く殺気の渦が静かに霧散していく。
そして彼は諦めたように、ひとつ小さなため息をつくと、
「…失礼する」
そう一言、俺の腕を掴むとその場を立ち去った。










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