「謝罪をしていただきたいのですがね」
穏やかな表情、それでいながら氷のように冷ややかな口調で、男は静かにそう言った。
声高に叫ばれたはずもないその一言で、ざわめきだった室内が一瞬にして静まり返る。
「…な、なに…」
「言い訳は結構。私はただ、彼に対して謝罪をしていただきたいと、そうお願いしているだけですよ」
男は静かな殺気を身に纏いながら微笑んでいる。

***

いつもと同じ、それはただの心無い中傷でしかなかったはずだ。
国家錬金術師になってからというもの、軍の内外関係なく、それは日常で。
だから、いつものように聞き流して済ませてしまうつもりでいた。
そうすることが一番賢いやり方なのだと、自分にそう言って聞かせたのは、他でもないこの男ではなかったろうか。
「おやおや。随分と小さな子供が軍に紛れこんでいるようだね?」
「もしかして、あれがそうなんじゃないですか?最年少で国家錬金術師になったとかいう」
「ああ、そうだろうな。マスタング大佐とご同席のようだし。間違いないだろう」
たまには一緒に昼食でもどうかと誘われて、大佐と連れ立ち向かった軍の食堂で、そんな聞こえよがしな会話が耳に入ってきた。
噂のネタになっているのは知っている。今ではすっかり慣れてしまった。
「話には聞いていましたが、本当に子供なんですねえ」
「そのようだな。あんな子供が国家錬金術師などと。よく大総統がお許しになったものだ」
「本当に。…でも、まあ。マスタング大佐が後見人のようですし」
「ああ、なるほどな。あんな子供に一体何をさせたことやら。どんな手を使って大総統に取り入ったものだか是非にご教授願いたいね」
「手どころか、身体を使ってかも知れませんよ?」
それもそうだと、殊更大きく相槌を打ちながら続く嘲笑。
言われた意味を理解しながら、いつものように聞き流す。
事実無根の根も葉もないただの噂話だ。とるに足らない下世話な会話だ。
例え一瞬、顔に血が昇り、どんなに居た堪れない気持ちになったとしても。
大きく一回、深呼吸。
いつもと同じ、自分らしく振舞えるように。
「…あー、腹減った。今日のお勧めメニューって何だろうな?なあ、大佐…」
そして見上げた視線の先、いつもと違う男の様子に、心が凍る思いがした。
「…大佐?」
まるで薄く氷が張られたような冷たい雰囲気を纏わりつかせて、男は徐に口を開いた。
嘲り笑う男達に向かって、たった一言。
謝罪をお願いしたいのですがね、と。









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