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ろくでなしの詩
7歳になった誕生日の夜、父さんが買ったばかりの新車に乗せて、俺をドライブに連れていってくれた。 弟と母さんが、家の前で「いってらっしゃい、気をつけて」って笑って俺達を見送ってくれた。 車は見慣れた街を抜け、高速に乗ってどこまでも、どこまでも続く一本道を猛スピードで駆け抜けて行く。 初めてみる夜の風景は酷く俺の心を高揚させたけど、隣に座る父さんが酷く無口なままだったから、俺は大人しく座っていた。 知らない間に俺は眠っていたらしく、目を覚ませば民家もまばらな山間の、細い小道を車はガタゴト走っている。 「起こしちゃったか。ごめんな、エド」そう言った父さんが、ミラー越しにぼんやり見えた。 覚えているのはそこまでで、今となってはどうでもいいことではあるのだけれど、 あの時俺を山に捨てた父さんは、最後にどんな顔をしていただろうって、そんなことをぼんやり思う。 今になって、ぼんやり思う。 あの時死ぬはずだった7つの俺は、そのまま何故か生き延びて、飢えと寒さに身を凍らせた冬の夜、一人の男に拾われた。 男はガリガリにやせ細った俺をみて、「おい、生きてるのか」と声を掛け、黙って頷いた俺を拾って街に出た。 そうして俺は、知らない街へと連れ戻された。 男は定職についてはいなかった。 たまにふらふら街中へと出かけていっては、大金を手にして帰ってきた。 金の出所を探ったことはなかったが、恐らくパチンコや麻雀のギャンブルで作った金だろうと思っていた。 男はいつも好きなように使えばいいと、ポケットの中から数枚の千円札を俺に握らせて、満足そうに笑って言った。 そして俺はその金を持って、インスタントラーメンを買いに行く。 インスタントラーメンの作り方を知らなかった俺に、男は面倒そうに最初の一杯目だけは作ってくれた。 男の元で暮らし始めて3年がたった頃、俺は男に犯された。 いつものように一つの布団で、一緒に眠っていたばずの、男にいきなり襲われた。 それからの毎日は、朝も夜もおかまいなしに、男の気が向いたとき、その時男が望むやり方で俺は男に犯され続けた。 身体の奥に男のモノを咥え込まされ、痛みに呻く泣き声はいつしかあえぎ声へと形を変えて、咥えた男を締め上げながら、必死になって腰を振る。 苦痛と快楽の狭間に立って、そのまま身体ごと浚われていってしまいそうな俺の耳に、楽しそうな男の声が遠くのほうから聞こえてくる。 ――いやらしいガキだな、お前。とんでもない淫乱だ。 そう言って、薄く笑った男の顔を目の端に捕らえながら、俺はそのまま吐精した。 ある日知らない男達がやってきて、俺をいきなり裸に剥いた。 裸にされて、知らない男に囲まれた。 そしてそのまま男たちは、代わる代わる順番に、黙って俺を犯していった。 何が起きたかわからぬままに呆然と、マワされ続ける俺の目に、無機質なビデオカメラのレンズが映る。 ――奴が言ってたとおり、これなら充分売れるだろ。 ――ああ。貸した金の利息くらいにはなりそうだ。 男たちに四肢を押さえつけられ、逃げ場をなくして目を閉じる。 ひたすらに廻り続けるビデオテープと、湿った粘着質な音だけが、いつまでも耳にこびりついて離れなかった。 それからもたびたび男たちがやってきて、俺を犯しては帰っていった。 ――俺たちを恨むなよ? ――恨むんなら、お前を売ったあの野郎を恨むんだな。 男たちの下卑た嘲笑が耳の奥で鳴り響く。 縛りあげられては犯されて、女装をさせられては犯されて。 上下におもちゃを突っ込まれて、そのまま放置されたこともあった。 そんな日々が続いたある日、俺は40度の熱を出した。 はじめてあの男に拾われた時と同じ、寒い冬の夜だった。 「・・・おい、生きてるのか?」 熱にうかされ朦朧とした意識の中、あの時と同じに男の声が頭の中に木霊する。 苦しくて声を出すことすらままならず、俺は小さく頷いた。 男は俺の顔を覗き込んだまま、しばらく黙って俺を見つめてこう言った。 「待ってろ。今、薬かってきてやるからな」 ついでに桃缶、買ってきてやるよ。 そうして俺の額にそっと小さく唇を落とすと、男は部屋を出て行った。 そしてそのまま、男は戻ってこなかった。 缶詰を買い求めたコンビニの軒先で、凍った路面でスリップした車が男の身体を轢いたのだ。 即死だったと聞かされた。頭を強く打ったのだそうだ。 俺の手元に残されたのは、男が抱えていた血濡れの小袋。 中には解熱剤と、風邪薬。それと桃缶がひとつだけ。 俺に優しくしたことなんて、ただの一度もなかったくせに。 気まぐれに俺に優しくしようとするから、こんな目にあったんだ。 あの男は、どうにもならないろくでなしだった。 そのことだけは、今になっても間違いようのない事実だし、今となってはどうでもいいことではあるのだけれど、 あの時、俺を見つめていたあの男の、熱に浮かされてよく見えなかったあの男の顔が、どんな顔をしていただろうって、 そんなことをぼんやり思う。 今になって、ぼんやり思う。 凍える寒い冬の夜。 俺はひとりの男に拾われた。 男は借金のかたに子供の身体を売るような、どうにもならないろくでなしだった。 それでもセックスなしで一つの布団に、二人で包まり眠った夜を、俺は決して嫌いじゃなかった。 俺に冷たい男の身体は、隣で眠れば温かかった。 冷たくて気まぐれで、どうにもならないろくでなしだったけど。 それでも、俺には大事な大事なろくでなしだった。 桃缶なんて、いらなかった。 あの男がいれば、それでよかった。 |