大家さんと一緒に母屋に向かった。
聞かされた話は、俄かに信じがたいものだった。
大家さんが言ったように、薄暗い床下の奥に、小さく丸まった白い影が見える。
「…にぼし?」
シンと静まり返る暗い土の上から、聞こえるはずの返事がない。
「にぼし…?」
何度呼びかけても、ニーと応えるにぼしからの返事はなかった。


大家さんの家の床下で、にぼしは冷たくなっていた。





どれくらい時間がたったのだろう。
部屋の中で一人きり、冷たくなったにぼしを抱えて、俺は途方に暮れていた。
「エド!」
玄関先でガタガタと音がして、呼ばれた先に顔をあげて振り向けば、ロイが呆然と立ち尽くしていた。
「ロイ…。にぼしが…」
「今、表で大家さんに会ったよ。話は全部聞いた」
「にぼしが、死んじゃった」
「ああ…」
口に出した瞬間に、事実が現実となって圧し掛かってくる。
そうだ、にぼしは死んでしまった。
腕の中でくたりとしたまま動かない。ニーと甘えて鳴くことだって二度とはないのだ。
もっと早く探してやればよかった。
もっと大事に可愛がり、もっと愛してやればよかった。
悔やんでも悔やみきれない、にぼしはひとりで逝ってしまった。
「エド」
にぼしを抱えて涙をボロボロ零して泣き出した俺を抱き、ロイが俺の背中を撫で続けている。
「エド」
「…ん」
「あとで一緒に、にぼしの墓を作ろうな」
「墓?…埋めちゃうの?」
「ああ。…君もにぼしも寂しくないよう、なるべく近くに作ろうな?」
「…ロイ?」
ロイは寂しくないのかと、そう尋ねようとして、常にない真剣な眼差しをしたロイの表情に思わず息を呑む。
「それからね。君に聞いてもらいたいことがあるんだよ」
出て行くのか、と。
そう尋ねようとしてやめた。
答えはすぐにでるはずだ。
ひとりで逝ってしまったにぼしのように、お前も俺を置いて行くというのだろうか。
「エド」
「…なに?」
「随分と君には迷惑をかけてしまったね。でも、もう…」
頬を伝う涙の雫を拭いながら、ロイの指先が俺の頬を何度も辿った。
「ロイ…?」
「…ああ」
雨宿りは、もう止めだ。
そう言って、優しい顔で微笑んだ。