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ミクロコスモス
ロイは狼狽した。自分はひどい間違いを犯していたのかもしれないと、それを思って狼狽した。 それは好奇心、単に興味が高じた末の行為であるはずだった。 光を弾く金の髪は、細く滑らかに指先を流れ落ちていくものだとばかり思っていたのだ。 だが実際に触れてみたその髪は、指先に硬めの感触を残して、乾いた髪が軋しみながらぱさりと音を立てるだけだった。 シーツの上に散らばるその色は鈍く、届かぬ月のようだと焦がれ続けた夜が嘘であるかのように暗く沈んでいる。 白く柔らかであるはずの指先は、咥内に含んでみればささくれだった節が時折歯にあたり、舌で辿れば小さな傷痕がざらざらと僅かな痛みを齎した。 しどけなく解けたシャツの下には、平たい胸が手付かずのままに広がるばかりで、今までロイが愛してきたような恥じらい震える乳房があるわけでもない。 躊躇いがちに先端を含んでみれば、甘いはずのその小さな膨らみは固さを増して皮膚を押し返し、強引に吸い上げた唇を拒絶した。 声を洩らすまいと思ってか、噛み締めた唇が白く色を変えている。 それでも堪え切れずに、ふと洩れた吐息は闇に紛れて低く溶け込み、甘やかに空気を揺らすものでもない。 ロイの下にいるエドは、どうみても女には見えなかった。 組み敷かれた身体は、青年期に差し掛かる少年特有のみずみずしさを保ちながらも平坦で、細い腰も女のような円いくびれがあるはずもなく、撫でた掌は突然訪れる硬質の臀部に戸惑い愚鈍に彷徨うばかりだ。 ロイは惑う心を誤魔化すように、詰めた息を細く吐き出した。それでも吸い込む息が、細切れに震えた。 女のようで、あるべきだった。 すくなくとも、目の前にいる自分の下で肌を晒す少年は、もっと女のようであるべきだった。 頭の奥を鈍痛が襲い、眩暈を覚え、ロイは固く瞳を閉じた。 金の髪や細い腰に女を重ね、歪んだ好奇心を乗せた上での欲情であればよかったのだ。 虚ろで捩れた興味に性欲という名で蓋をしただけの、ただそれだけでことは済んだはずだった。 だからこそ、こうしてロイはエドの身体を組み敷き抱こうとしている。 それが、どうだ。 実際に触れた少年の身体には、女のそれを思わせるものなどどこにも存在してはいなかった。 用意した言い訳の全ては無に帰して、逃げ道が塞がれ、退路もすっかり断たれてしまった。 ロイは狼狽した。無様にうろたえ、途方に暮れた。 むずかる子供のように緩く頭を振れば、ぶれた視界は彼を一層惑わせた。 こんなはずではなかった。 身体が震え、指先は冷え、波打つ白いシーツの皺に目が眩む。 こんなはずではなかった、と頭の中で繰り返される言葉の渦が、耳鳴りとなって思考を狂わす。 耐え切れず歪む視界に目を凝らせば、開けた視界に飛び込む光景が更にロイを打ちのめした。 甘さを持たぬ少年の身体が組み敷かれている。同じ身体と性を持つ男によってだ。それもひどく欲情した男によって、だ。 なんということだ。なんという無様さだ。よりにもよって、この少年を。 迫る波のように絶望が押し寄せて、無数の甘い棘となり胸を突き刺す。 こんなはずではなかった。そんなことがあっていいはずもなかった。 だがそれならばこの欲情に、一体どんな理由をつければいいのだろう。 「…大佐」 「―――…っ!」 不意に呼ばれた声色に、触れてもいない自身の質感が増すのを感じ、ひくつく喉奥から声が溢れ叫びだしそうになる。 それは好奇心。単に興味が高じた末の行為であるはずだった。 軋む髪に、ささくれだった指先に、平たい胸に、噛み締めた唇に。 吐息まじりの掠れた声で自分の名を呼ぶ、甘さを押さえた声色に。 恐ろしいほどに欲情している自分に戸惑い、狼狽する。 それは、好奇心。 単に興味が高じた末の行為であるべきだった。 高鳴り震えて転がり出しそうな胸の痛みを抑えて、血が出るほどに唇を強く噛み締める。 目の奥のきつい痛みを紛らすように瞳を閉じて、ロイはエドのかさつく唇に噛み付くように接吻けた。 ビッグ・バン。 |