|
オル・デ・ソロ
抱いてもいい? そう言って小さな身体に押し倒された。 暗闇ですら輝く金糸の髪。 目の前に昏く光る金の瞳。 そうか、瞳の色も金だったのか、と今更ながらに気がついた。 それはまるで精巧に作られた飴細工のようで、気配が甘く纏わりつくようだ。 ねえ、抱いてもいい? 再び問われて意識を向ければ、小さく震えるその声は、怯えとそして、確かに欲に濡れていた。 金の瞳も同じように濡れていて、今にも泣き出してしまいそうに揺れている。 男に抱かれる趣味はない、と冷たく突き放してみれば、 じゃあ、大佐が俺を抱く? 小さく笑ったそう答えた。 どっちでもいいよ、俺。アンタと抱き合えれば、それでいいから。 声が震えている。指がたどたどしく胸を這う。 やっぱ、ダメ? その気になんない? 俺、男だし。手足も多分あったかくないしさ。 それでも、アンタとしたいんだ。 俺、なんでもするし。アンタがやれっていうなら、どんなことでもする。 俺でその気になんないなら、他の誰かを思っていいよ。 そうだ、俺だと思わなければその気になれる? だったら、大佐の好きな誰でもいいよ。 その人を思い浮かべて。 だからね?大佐。 俺としよう? 声は変わらず震えている。瞳も変わらず揺れている。 言い募る言葉を必死に紡ぎ、そのくせ誘う仕草が娼婦のようで、そのちぐはぐさに眩暈を覚えた。 細くカーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされて、白く細い腰が途方に暮れている。 顔を覆う髪が邪魔をして、苦痛に歪められたその表情が伺えない。 もっとしっかり、網膜に焼き付けておきたかった。 ぼんやりと、触れ合う肌のぬくもりだけが、これが現実なのだと知らしめる。 非現実的な現実。 まるで夢のなかにいるように、実体のない少年の身体が、腰の上で妖しく照らし出されている。 ――なんでだろう。 腰の上に跨ったまま、少年が小さな声で呟いた。 なんか、俺。さっきからずっと女みたいに、でも、なんで。 なんで入らないんだろう。無理なのかな、俺、男だし。 そう言って、何かに堪えるように細く息を吐き出した。 大佐、俺。 俯きながら、消え入るような声で話し出す。 俺、アンタのことが好きなんだ。 だから、秘密が欲しかった。 大佐と俺と二人だけの秘密。 本当は、なんでもよかったんだけど。 でも、身体を繋げたら、セックスしたらさ? 心と身体に、アンタと抱き合った記憶が残されるって。 これからどんなことがあっても、俺はそれがあれば生きていけると思ってた。 秘密を作って、秘密をしまって。 小さな秘密を一人でこっそり愛しながら眺めていれば、生きていけると思ってた。 でも、できなかった。 セックスできなかった、ね。大佐。 ごめんね。 忘れていいよ。でも、忘れないで。 ごめん。うそだよ。忘れていいよ。 ――俺は覚えていてもいい? ごめんね。大佐。 忘れて。でも、忘れないで。 どうしよう、涙が止まらない。 そう言って静かに泣いた少年が、夢の中にいるようで、ただ見つめることしかできなかった。 *** ――抱きしめておけばよかったな。 天上に、金の太陽が輝いている。 地上は、赤く焔に燃え、街を人を燃やし尽くして、煙に煤けた空までもを真っ赤に染めた。 飛び交う銃弾を避けながら、それでも全てをかわせるはずもなく。 身体を貫くいくつもの銃弾に、流れる血が大地を赤く染めていく。 視界の全てを赤一色で染め上げられる。 倒れ込んで、救いを求めて空を仰ぎ見れば、太陽が放つ金の光は揺ぎなく、不意に揺れる君の瞳を思い起こした。 忘れていいと、忘れないでと、そう言った君の全てを忘れることなどできなくて。 秘密が欲しいと泣いた君を、抱き締めることすらできなかった自分の臆病さに、自嘲した。 野望があった。 それをこの手で掴むまで、他の何にも囚われず、他は不要と切り捨てた。 君の想いを切り捨てた。 君が欲しいと確かに感じた、自分の欲に蓋をして。 誰にも言えない秘密があった。 誰にも知らせず、誰にも知られず、心の中に秘密をしまって。 このままここで朽ちてしまえば、君にも知らせず、君にも知られず、永遠にこのままで。 遠く霞む意識の中で、ひたすらまでに想うのは、ただ君一人のことだなんて。 野望よりも、何よりも。 大事なものは、君ただ一人。 誰より君を愛していたと。 君を想えば、身も世もないと。 伝えなかった想いが、戦火に燃える空に舞う。 秘めた想いは、このまま永久に秘密のままに。 |