賞味期限は一ヶ月。



疲れ果てた身体を引き摺り、家路に着いた。
家を空けてから何日が経過したのだろう。机の上に拘束され続けた身体のあちらこちらが、バキバキに強張っている。
腰をトストス叩きながら、自室へ続く階段を見上げた。
見慣れたはずの階段の段数が増えているような気持ちになるのは、やはり気のせいか。
はあ、と一つ溜息をつき、何に勝負を挑んだものか、一気に階段を駆け上がる。
「――ッ!ハーハー…」
案の定、無駄に体力を消耗しただけだった。
どうにも正常な判断力を失っているようで、家路の途中、一人で食べきれるはずもないパンを三斤も買ってみたり、
腐る腐ると思いながらも、本日の特売品、4ポンドのハムを衝動買いしてみたり。
「…重いなあ、流石に」
オレンジジュースを5パイントって、一体どうするつもりだったんだろうな?こんなに買って。
腕の中の紙袋をよいせと持ち直し、廊下の突き当たりにある自室に向った。
「――?」
確かに掛けたはずの、扉の鍵が外れている。
招かざる客が、家主より先に入り込んでいるのだろうか。
慎重に扉を開き、中へと足を踏み入れる。
気配を殺して、滑り込んだリビングのソファの上、豪快な寝姿の見知った少年の姿があった。
「…鋼の」
詰めていた息を吐き出しながら、知らず顔が緩むのを感じていた。
客が彼なら、諸手を挙げて大歓迎だ。
いつから部屋に居たのだろう、辺りには本棚から取り出したらしい錬金術関連の本が散らばっており、本で顔を埋めながら、狭いソファに伸び伸びと身体を投げ出し、熟睡している。
買い込んだ食糧がムダにならずに済むらしいと、緩む頬もそのままにキッチンへと向かい、冷蔵庫の扉を開いた。
「…あ?」
チキンに卵、トマトにシュリンプ…。それと、ハム。ハムが何故か4ポンドも…!
出掛ける前には確かにカラだったはずの冷蔵庫の中身が、やけに充実していた。
「――…いでっ!」
ドサリと音がして、反射的に音がするほうに目をやれば、まさに少年がソファから床にずり落ちたところだった。
「やっとお目覚めか?」
「んあ?あー、大佐…」
半ば寝ぼけているのだろう、少年は床に四肢を押し付け、ネコのように伸び上がっている。
「いつ、こちらに着いたんだ?」
「アンタ、いつ帰ってきたの?」
同時に似たような質問をぶつけ合い、一瞬の沈黙が降りる。
「たった今、帰ってきたばかりなんだがね」
「今日の昼過ぎに、着いたんだけど」
再び同じタイミングで応えを返し、更に沈黙が流れた。

『おかえり』

同じ言葉を、同じ呼吸で。
顔を見合わせ、どちらともなく笑い出す。
「おかえり、鋼の」
「うん。大佐もおかえり」
膝に乗り上げてきた少年の頬に接吻を一つ落として、共に冷蔵庫の中身を覗き込む。
「ところで、鋼の。…このハムのことなんだがな」
「うん。本日の特売品だったから、買ってみた」
「やっぱりかー…」
膝からずり落ちそうになる少年の身体を抱えなおしながら、笑いを小さく噛み殺す。
「鋼の」
「うん?」
「連帯責任だぞ、付き合え」
8ポンドのハムを食べきるまで、どれほどの時間がかかるだろうか。
賞味期限は一ヶ月。
その日が過ぎるその時までは、抱き締めたこの腕は、何があっても離さない。





ロイエド(ハム)


モドル