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ごめんね。
一生、言うまいと思っていました。 俺はずっと生かされてきた。 アルを取り戻すためだけに、生かされてきたのだとずっとそう思ってきたから。 鋼の手足は俺の罰。鎧のアルは俺の罪。 だから一生言うまいと、そう心に決めていました。 ◇ あれは春先、日差しの暖かかった午後の執務室。 久しぶりに会ったアンタは、とても穏やかな顔をしていて、笑みさえも浮かべていた。 いつもみたいな嫌味な言葉のオンパレードも、そんな柔らかな笑顔の元に言われてしまえば、それも気安さの証なんだと、そう言われた気持ちになって。 様々な事柄がとてもとても春めいていた。だから俺は、それにつられてすっかり気を抜いていて。 「俺、アンタ好きだなー…」 そんな言葉が自然に口をついて出た。 するりと口から飛び出た言葉に、誰より一番驚いたのは、他でもない俺自身で。 せめてアンタの耳に届いてしまうその前に、取り返そうと伸ばした指は、言葉の尻尾を捉えることすらできないままに。 慌てる俺などお構いなしに、アンタの耳へと吸い込まれていってしまった。 どうにも居たたまれない気持ちになって、そっとアンタの顔を伺い見れば、アンタはとても困った顔をして、複雑そうに俺のことをじっと見つめていたから。 ああ、俺は失敗したんだと、そう思って泣きたくなった。 そこから先のことは、あまりよく覚えていない。 それじゃ俺、汽車を待たせてあるから。とかなんとか、意味不明なことを言いつつ全力疾走、俺は逃げた。 そう、逃げた。 一生言うまいと誓った言葉を、さらりと言ってのけてしまった自分の迂闊さを心底呪い倒しながら。 もしも、アンタが好きだって。 そう言って、気持ちを伝えたとしても。 そしたらアンタが『ああ、実は私もなんだ』なんてそんな都合のいいことがあるわけないって、俺は知っていたからさ。 一生言うまいと思っていたのは、確かに生かされている俺自身の、それでもほんの僅か残された俺が自由である場所で、 アンタは俺のすべてだったから。 初めてリゼンブールで会った、あのときからアンタはずっと、俺の夢で憧れで、俺のすべてだったから。 否定されたらきっと息もできなくなる。 俺はそれを知っていたから。 「…鋼の!」 走って走って辿りついた駅のホーム、アンタの声が聞こえたときは、本当に息が止まると思った。 幻聴が聞こえちまうくらいには俺は重症なんですか、と思わずブラックアウトしかけたほどに。 「待て!待ちたまえ、鋼の!」 肩を掴まれ振り向きざま、アンタの姿を見たときは、ああ、幻影まで。とますます気が遠くなった。 「やっと掴まえた…!は、鋼の。は…はが、はー…」 全身でぜいぜい息をするアンタがあまりにリアルだったから。 「…大佐、か?え、マジで?」 「当たり前だ…!待てというのに全力疾走しやがって、このマメ…」 「…ああ!?」 「君…、さっき言ったこと、どっちだ?」 「あ?」 誰がマメだと噛み付こうとして、今だにゼーハー言っているアンタの声に遮られた。 「さっき好きだと言ったろう?あれは告白なのか?それとも独り言なのか?…どっちだ」 「あ…」 「嘘でした、っていうのは聞かないぞ。あれは本心だったろう?だから、鋼の」 どっちだ、答えろ。 そう言って、息を切らした姿勢のままにアンタが俺の肩をぎゅーっと掴んだから。 「わ、かんね…。やっぱ好きだなって思ってたら。口から零れた…」 嘘です。冗談です。って言うつもりでいたのに、口から転がり落ちていったのは、俺の素直な本当の気持ちで。 ああ、また取り返しのつかないことを言っている。と思いながらも、俺は。 「アンタに言うつもりなんてなかったんだ。一生言わねえと思ってたんだ、本当に」 一度溢れてしまった言葉は、留まることを知らなくて。 「本当に、言うつもりなんてなかったんだ…」 溢れ出す言葉につられて、目から涙が零れ落ちた。 やべえ。だせえ。と思いながらも、俺はアホの子みたいにダラダラと泣いていて。 どうしたってんだ、俺。と自分自身に驚愕している間にも、涙はぼろぼろと零れ落ちていった。 「鋼の」 アンタはそんな俺のことを、やはり困った顔をしてじっと見つめ返してくるから。 なんちゃって、嘘でしたー。手の込んだ嫌がらせをしてみましたー。って、そう言った方がいいんだろうな。と思ったら、また涙がドバドバ出てきた。 「うおー…。俺の涙腺ぶっ壊れてるー…」 「…何言ってる。泣くな。好きだ。泣くなよ、鋼の」 泣くな、困る。と言って頭をワシワシ撫でた男は、どさくさ紛れにさらりと凄いことも言っていた。 「なあ、今。…何て言ったの?」 「泣くな」 「その後」 「好きだ」 「…なにそれ。からかってんの?それとも同情?どっちだ」 いずれにしても殺す。とか思って殺気を振りまきつつも、そう尋ねれば。 「――…告白だ」 と、返された。 あれは春先、日差しの暖かかった駅のホームの片隅で。 ◇ 俺は生かされているのだと思っていました。 俺が生かされている、そのすべてはアルのために。 そのためだけに生かされてきたのだと、ずっとそう思っていました。 言えばアンタは怒るだろうけど。 でも、本当にずっとそうだと思っていたんだ。 俺には幸せだとか平穏だとか、一切無縁のものだと信じていた。 駅のホーム、抱き締められたアンタの腕に包まれて、俺がどんなに幸せだったか。 それからの俺が、どれほど幸せだったのか。 これから先、アンタにそれを伝える術はもうないかも知れないけれど。 アンタはあらん限り全ての愛で、俺を包んでくれたから。 アンタは俺を、俺のすべてを愛してくれた、唯一の人だから。 だからね?大佐。 俺は、とてもとても、幸せでした。 扉の向こうへいってしまえば、二度と会うことは叶わないかもしれません。 例え二度と会えなくとも、俺は。 貴方を愛した自分を、誇っていきたいと思っています。 貴方に愛された自分を、誇りに感じていきたいと思っています。 だからこれから俺のすることを、どうか悲しまないでください。 生かされている俺とは別に、自由な俺の生きているその場所で。 ほんの僅か残された、俺のすべてで願うのは。 貴方の行くその道が、希望に続く道でありますように。 貴方の行き着くその場所が、光で満ち溢れた場所でありますように。 貴方が進むその先に、幸多からんことを切に願う。 ごめんね、大佐。 俺は最後まで自分勝手を貫いていくけれど。 俺のすべてを愛してくれた、貴方は俺のすべてでした。 愛を、ごめんね。 俺はとても幸せだった。 ほんの僅か残された、俺が俺である場所で。 貴方は俺のすべてでした。 |