お元気ですか?



拝啓 ロイ・マスタング様

お元気ですか?
まあ、多分元気だろうと思っているので、これはいわゆる社交辞令みたいなもんなんだけど、お元気ですか。
アンタと最後に会ってから、こちらの日付で1年と3ヶ月が過ぎました。
そちらの世界と似ているようで似ていない、こちら側での生活にも余裕で慣れ、それでも変わらず俺たちの職業は旅人だったりするんだけれど、これって一体なんの因果なんだろな。
他人と関わりを持たないようにしていた以前に比べ、今はアルがいるからさ。
気がつけばいつの間にやら、知り合いだとか友人だとかに囲まれて、そこそこ楽しくやってます。
アンタの方はどうですか?一人くらいは友達できた?元々友達少ねえのは知ってんだけど、せめて三人くらいは作ってみてもいいんじゃないかと、実は前から思ってました。
まあ、大佐には中尉や少尉ズ達がいるからね。言うほど心配しているわけじゃねえけどな。
ちゃんとメシは食ってますか。冷蔵庫の中身が水と氷だけだとか、そんな切ないことになってやしないかと、考えるだにハラハラします。
メシは大事なんだから、ちゃんと食わないとダメです。
面倒だから酒でいいや、とかそんなじゃ背も伸びないし、立派な大総統にもなれないぜ?
そういえば、俺、ピクルス漬けたままでこっちに来ちゃったんだけど、あれ食っていいからね。
この前言おうと思ってて、すっかり忘れていたみたいです。
俺は自分で作れるし、そうだ、後でナスを買ってこよう。


拝啓 ロイ・マスタング様

お元気ですか?
中尉の言いつけをよく守って、真面目に仕事をしてますか。
シャツにアイロンをかけていますか。アンタ、仮にも大佐なんだから、身だしなみくらいはきちんと大佐らしくしてください。って、俺はアンタの母親か。
前回お手紙を書いてから、随分と時間が経ちました。
生まれ持った適応力と才能で、こちら側でも大活躍の俺ですが、それでもやっぱりよそ者は、何処まで行ってもよそ者で。
なので、変わらずアルと一緒に旅を続けています。
陸の先に海があり、海に先に陸がある。この世界もまた一つに繋がり、連鎖している。
そんなあたり前のことに気づくたび、少しずつ俺の中の何かが開いていって、身体の中に浸透していく気がします。
それはちょっとした感動を伴いやってくるので、この感覚を誰かと共有したいと思うこともしばしばですが、そんなとき真っ先に思いつくのは、どういうわけだかアンタの顔だったりするものだから、俺はこうしてアンタに手紙を書いています。
海へと続く陸の果て。その先にある、海の向こうの陸の先。
なにものにも囚われず、自由になったこの身一つで俺は今日、海の先を眺めながら、不自由だと思っていた以前の自分は、何一つ不自由などではなかったのだと気がつきました。
お元気ですか?
俺もアルも、元気です。


拝啓 ロイ・マスタング様

お元気ですか?
書いた手紙をボトルに詰めて、今日海に流しました。
世界が一つに繋がるように、この海もアンタのところに繋がっているといい。
そしたら俺もボトルに乗って、流れ流れて海の先、いつかアンタの場所に辿りつくまで。
思い出すのはどうでもいいことばかりで、本当に些細などうでもいいことばかりで、それでもそんなどうでもいい事柄が、俺にとってどれほど貴重なものだったのかと、今更ながらに思います。
朝、目が覚めたときにアンタが隣にいたことなんて、そうそうあったことでもないのに未だに俺は、アンタの姿を目で探し。
妙に掠れた低い声で『おはよう鋼の』って、朝から陽気に『愛してるよ』ってふざけた台詞を、アンタの顔を、アンタの声を、アンタの全てを俺は探す。
アンタを見つけて、バッカじゃねえのー?と笑うために。
最後にアンタに会ってから、時間ばかりが過ぎて行きます。
そう言えばこの間、アンタにとてもよく似た人に会いました。
アンタと同じ顔で、同じ声で、同じ仕草で、同じ質感で。
でもやっぱり、アンタじゃなかった。
当たり前のことなんだけど、やっぱりアンタじゃなかったよ、大佐。


拝啓 ロイ・マスタング様

大佐、お元気ですか。
弱音ばかりを吐きました。けれど、それもこれで最後にしようと思います。
腹を括って覚悟を決めて、この世界で生きていくと誓ったあの日の俺の決断は、間違ってはいなかったのだと、今でもそう信じています。
だから俺は守りたいとあのとき願った、もう一つの大切なこの世界で生きていく。
大佐、お元気ですか。
もうすぐこちらは冬の季節を迎えます。
風が冷たく吐息が白く、澄んだ空気に溶け出すような、そんな毎日が続きますが、俺もアルも元気です。
大佐、お元気ですか。
いつか海を渡って記憶を辿って、貴方に声が届くなら。
星も凍る寒空の下、俺はいつでも貴方の幸せを願っています。
いつか貴方が夢を叶えて、心の底から笑える日が来ることを、俺はここから願っています。

大佐。

大佐。

お元気ですか。

あの日、歩き出す勇気をくれてありがとう。
沢山の愛を、喜びを、教えてくれてありがとう。


大佐、お元気ですか。
俺は、すんげえ元気です。
だから。


大佐もどうぞお元気で。
どうかどうか、お元気で。



エドワード・エルリック






モドル