VIOLETS FOR YOUR FURS.



「…俺、ヤク中きらーい!」
己に銃口を向ける、顔中を涎まみれにした男を見据え、嫌い嫌い大嫌ーい!と朗らかに宣言した青年は、乱射される銃弾をいとも容易く避けながら、なんの躊躇いもなく男の首に廻し蹴りを食らわせた。
グギリと骨がずれ込む嫌な音がして、泡をふきながら地面に倒れこんだ男は、失禁しながら失神している。
「殺すなよ。って、もしや手遅れか?」
「大丈夫。寸止めといた」
えいえい、と男の顔を靴の底で踏みにじっていた青年は、そう言ってにこりと微笑むと、靴の底についた涎を拭うため、今度は倒れた男の上着を踏みにじっている。
「しかし、まあ…。随分とハデにやらかしたものだねえ…」
後から駆けつけた男は青年と辺りを見比べ、はあ、と一つ聞こえよがしに溜息をついている。


一日平均65件の殺人事件と、874件の強盗事件、その他諸々の犯罪を含めれば軽く4桁強は超えるだろうと思われる、犯罪都市セントラル。
世界有数の貿易港として名高いセントラル市は、ステーションを中心とした放射線状の都市形成が為されており、悪名高い犯罪者が住まう都市としてでも、全世界に名を馳せていた。

「なあ、大佐。こいつの賞金額っていくらだっけ?」
「確か、10万センズくらいじゃなかったか?」
「じゃあ、さっきの銃乱射無差別殺人と、軍人殺害未遂を加えれば…50万くらいいく?」
「軽く超えるだろうな」
「…ラッキー」
「ラッキーって、君。少しは口を慎みたまえ。仮にも軍に所属する身なのだから」
大佐と呼ばれた男は、台詞とは裏腹に、軽い口調で部下の青年を嗜めた。
「だーって、ラッキーじゃん。殺された奴らも賞金首。殺した奴も賞金首。捕まえた俺には賞金が入るし、これをラッキーと呼ばずして、なにがラッキーか。…って、死んだ奴らの賞金も俺のものになるのかな、この場合」
「守銭奴」
「…うっせ」
上官から守銭奴よばわりされた青年は、散々踏みつけていた男から目を離すと、途端に興味を失ったように、大口を開けてあくびをしている。
「後始末は他のものに任せるとして…、エドワード?」
「ああ?」
「約束の時間を覚えているかい?」
「…あー」
「むしろ、約束したという事実を覚えているのかい?ええ、コラ」
「勿論ですとも、大佐。…ええと、確かロギンスの店で午後7時」
「上出来だ。で、今の時刻は?」
「…6時くらい?」
「10時だ、バカモノ!君は人をどれだけ待たせれば気が済むんだ。寄り道しないでちゃっちゃと来んか!」
「そんなこと言ったって、ヤク中が銃もって暴れてたんだもの。この都市の治安を守る軍人としては見過ごせないもの。俺の中の正義が見過ごすことを許さないもの」
「ここは君の管轄外だろう?ついでにさっきからずっと、管轄の皆さんが『管轄荒しー!』って怒ってるのが見えるだろう?」
「正義に内も外もないだろうよー」
「『賞金稼ぎー!』ってのも聞こえてるだろう。…よりにもよって、なんだってオクトレイ大佐の管轄内でお前は…」
「あー、アンタと犬猿の仲の人」
「そのとおりだ、エドワード。というわけで、奴が来る前に早々にこの場を立ち去るのが賢明だ」
「えー」
「えー、じゃない。全くお前は、金のことになると本当に見境ないな」
「『守銭奴』だからね」
「…逆手にとって、いばるな!」
そう一言怒鳴りつけ、男はエドワードを小脇に抱えるようにしながらその場を立ち去った。