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「…ぅおあっ!」 自分の声で目が覚めた。 ――なんつー夢見てんだ、俺…。 とんでもない内容のそれは、とんでもなく懐かしい夢でもあった。 もぞもぞと起き出して、先程の叫び声でも目を覚まさなかった男の顔を覗き見た。 ――若かったよなあ…。俺も、コレも…。 コレ呼ばわりされたとも知らず、男はコーだかスーだか寝息を立てて、幸せそうにマヌケな顔ですっかり眠りについている。 再びもぞもぞと身体を動かし、今ではすっかり定着してしまった専用枕――男の二の腕あたりに頭を移動させる。 何度か首を乗せ直し、すわりのいい場所に頭を収めながら、男の肩口に顔を埋めた。 相変わらず穏やかな顔で眠っている男がスースーと寝息を立てる度、それに合わせてそよそよと前髪が揺れて額を擽る。 ――なんで今更、あんな夢見たんだろうなぁ…。 なんとなく男の首筋にうっすらと浮かんだ汗の粒を舐めとりながら、先程見ていた夢の続きを思い出す。 あれから幾度となく接吻を交わし、少しずつ角度を変えながら徐々に深くなるそれに耐えられなくて、 確か「もっと…」とか言ったんだった。…俺が。 そしたら急に動きが止まって、いきなり目の色変えたんだったっけなあ…。コレが。 突然に髪を引かて、顎を掴まれ、引き寄せられた。 それまでの軽く触れ合うキスとは違う、呼吸さえも奪われるような激しい接吻。 「ふ…あっ…あ、大佐…っ!」 唇が離れた瞬間、悲鳴にも似た声が漏れ、瞳を開けて見つめれば、 そこには欲情の色を強く滲ませ、食いつくように目を光らせた知らない男の顔があった。 「あ…っ…」 全身にゾクリと鳥肌が立つ。 それは昨夜のような嫌悪感からくるものでは決してなく、期待と喜びと、ほんの少しの恐れ。 視線だけで犯されている。その感覚は身体の奥から溢れ出すような官能の渦を巻き起こした。 その時、俺は一体どんな顔をしていたのだろう。 ただ、俺の顔を食い入るように見つめていた男は、獰猛そうな獣のようにニヤリと口の端で笑って。 「…覚悟はいいか?」 とそう一言。そして俺に覆い被さってきた。 「…ううーん」 ――何を細かく忠実に思い出してんだよ、俺。 昔の記憶に触発されて、昨日の熱の名残が呼び覚まされそうになり、慌てた。 今も昔も変わっていない。絡みつかんばかりの熱心さで俺を翻弄し、そしてその激しさのままに俺を抱く、この男は。 いまだ変わらず俺だけに執着し続けている。 あの時も、散々喘がされて、鳴かされて。 手でイかされ、口でイかされ。 他人の手で触れられるのも、あれが初めてだったというのに、執拗なまでに追いたてられた。 もうこれ以上は無理だと泣きが入りそうになり、それを訴えようと縋りついた男の股間を見て俺は。 ――確か、マジ泣きしたんだった…。 忘れかけていた衝撃の事実を思い出し、軽く酸欠を起こしそうになった。 ――俺って、一体。ああ、もう…、忘れたままでいたかった。 あまりの恥ずかしさに、叫び出してしまいそう。 子供だったのだと思う。 あの頃は子供扱いされる自分が歯がゆくて、早く大人になりたいと、いつも気ばかり張っていた。 でもまだ子供だったのだ。…怒張してそそり勃つ男の股間を見て、泣き出すくらいには、多分。 急に泣き出した俺を見て気を削がれたらしい男は、慌てて俺を宥めにかかり、それでも決して萎えることなく。 「…気持ち悪いかも、しれないが。しばらく、我慢してくれ…な?」 そう言うと、ぴたりと閉じさせた俺の太股にそれを押しつけ、ゆっくりと抜き挿しを始めた。 「うっ…え、なに…?大佐ぁ…」 「悪い。…気持ち悪いだろう、が」 何かを必死に耐えるような男の顔が、徐々に快感に歪められていく。 「…くない。気持ち悪いとか、ない。平気…」 「…っは、無理するな…っ。…怖いか?俺が…」 「怖くない…。平気…っ!」 次第に動きを早めながら、目を閉じて唇を薄く開け、ハッハッと短く獣じみた呼吸を洩らす。 普段からは到底想像できない男の姿をただ呆然と見つめていた。 そして不意に、この男をこうして乱れさせているのは、感じさせているのは自分なんだと思ったら、 ぎゅっと内臓の奥の奥までが絞りこまれるような、信じられない程の快感に襲われた。 「うあっ、あん…っ!大佐…ぁ」 いきなり切羽つまった俺の声に薄っすらと目を開けた男が、次の瞬間小さくうめいて、俺に向かって倒れ込んでくる。 しばらく息を整えながら、指で俺の唇をなぞり、そして再び唇で塞がれた。 そのまま首筋に残る傷痕を、指で辿り、舌で舐め上げ、強く強く吸い上げられた。 ――もう、5年も前の話だ。 あの時の傷痕は、その痕跡すら残しておらず、その代わり、あの後何度も重ねられ、昨日もまた付けられた愛撫の後が、今は赤く小さく身体中で花を咲かせている。 子供だったのだと思う。 今ではもうあんな背伸びをしなくても、誰も俺を子供扱いしない程、いつのまにか俺は大人になっていた。 隣に眠る男の髪に指をさしこみ、そっと額にキスをする。 同時に小刻みに身体が揺れ出すものだから、何事かと男の身体に乗り上げてその震源地を見てみたら。 ――うっわ、オッサンくせぇ…。 寝ながら片手でケツをぼりぼり掻いている。 無意識のうちに進んでいるらしい、オッサン化現象を食い止めようと指をそっと離したら、 今度は俺の掌を、カリカリカリカリ掻いて来た。 微妙な具合で眉間に皺を寄せながら、眠りながらも不思議そうな顔をして。 「…ぶほっ!」 耐えきれずに噴出してしまう。クククク…と俺が笑いを堪えるたび、男の身体が一緒に揺れた。 ――あ、アホだ。 アホだしエロいし、オッサンだし。 でもそれすらも、好きだと思う。堪らないほど愛しいと、心の底からそう思う。 *** 『今まで君を想う時、優しいような甘いようなそんな様々な感情が、これから君を想う時、激情にとってかわるだろう』 あの時聞いた貴方の言葉を、俺は今でも忘れていない。 こうして二人で恋に落ち、探るように心を合わせ、奪うように身体を重ねた。 不安で立ち止まる夜もあった。喜びに打ち震える朝もあった。 いつしか探り合うだけでなく、奪い合うだけじゃない、ともに与え分かち合う、そんな愛し方を二人でゆっくり覚えていった。 優しさや愛しさや、激しさや切なさや、そのあらゆる全てが綯い交ぜとなり、 ただひたすらまでに、貴方に向かって伸ばしつづけたこの腕を。 貴方は決して離そうとはせず、貴方が俺に向かって伸ばした腕を、俺が離すこともない。 二人で絡ませ紡いだ想いを、互いに引き寄せ手繰りあう。 そうして二人で今もいる。出会った時から、今もなお。 奈落の底で、恋をしている。 |