『おかーさん。おかーさんは、アルのことが好きですかー?』
『なあに?いきなりどうしたの?』
『アルのことが、好きですかー?』
『もちろん、大好きですよー』
笑いながら、母さんがアルを抱きしめる。
それは遠い、遠い記憶の中の・・・。

CAT BLUES


真夜中すぎに目が覚めた。
正確に言えば、まだ瞼は開いていない。
夢を見た。
夢を見ながら、これは夢だ。と何度も思った。
それはひどく懐かしい夢だった。
もう一度夢の続きが見たいから、途切れた夢のしっぽを探してみる。
目を閉じたまま、何度試みても、とうとうそれを捕らえることは叶わなかった。
「・・・喉、乾いた」
未練がましく瞼を閉じたまま、コソリと呟いてみる。
けれど、誰かが水差しを持ってきてくれるわけでもなし、仕方がないと諦めた。
はあ。と溜息を一つ吐いて、目を開ける。
既に見慣れてしまった天井。そして、いつまでたっても慣れない感覚。
隣には情事のあとを色濃く残して、見慣れた男が眠っている。
目を閉じてしまえば途端に幼くなる寝顔を、しばらく眺めてくすりと笑う。
それから、猫の仕草でするりとベッドを抜け出した。

『エドワード?』
『なに?母さん』
『エドは、聞かないの?』
『なにを?』
『お母さんは、エドのことが好きですかー?って』
『な!そんなこと聞くわけないだろ?!アルみたいに子供じゃないんだから!』
『あら、そう?ふふふ。つまんなーい』
そう言って、母さんが笑って。

コップに注いだ水を飲み干して、遠い記憶を遡る。
・・・聞いておけばよかったな。
ちゃんと聞いておけばよかったよ。
もし、今それを聞いたなら。
母さんは、なんて答えるだろう。
俺が。俺たちがしたことを。
母さんは許してくれるだろうか。

部屋に戻り、再びベッドに潜り込もうと身を屈める。
相変わらず深い眠りについているらしい男の髪が、ちょこんと跳ねているのに気がついた。
「寝癖・・・」
吹き出しそうになるのを堪えて、そっと指で髪を戻してみる。
見た目よりも柔らかなその髪は、幾度か指で撫でるうちに元の場所へと戻っていった。
髪に触れた指先から、愛おしさが込み上げる。
「大佐はー、エドのことが好きですかー?」
小さな声で問いかけた。
しかし隣で静かに眠る男からは、当然のように応えはなかった。
答えられても困るけどな。
こんなことが聞かれていたら、恥ずかしさで死ねると思うくらいに。
聞こえてないと思えるからこそ、訊けることもあるのだから。
「・・・って、バッカじゃねえの?俺」
恥ずかしくて、虚しくて、涙が零れそうになって困った。
「はー・・・。寝よ」
懐かしい思い出も、くだらない感傷も、今はしまって眠ってしまおう。
明日もまた遠く西の町へ、希望をみつけに行くのだから。



少年がすっかり眠りについた頃、すでに寝ていたはずの男の瞼がそっと開かれた。
隣で眠る少年を起こさぬように、注意を払いながら身を起こす。
「好きですかー・・・ね」
夜の帳がすっかり降りた暗がりの中でも、薄っすらと輝く蜂蜜色の髪。
男は、今は触れられないその髪を、視線だけで愛撫した。
「・・・好きですよ。とてもね」
そう呟いて、目を伏せる。

けれどその告白は、少年の耳には届かない。








しかして翌朝、大佐の髪は跳ねていた。

モドル