Cubic Lover's



きっと重ならない道だけど。と、あの子は言って、
でも寄り添ってはいたいんだ。とそう言って。
それはそれは、綺麗に笑った。



初めて二人のその姿を見たときは、ああ、やっぱりな。と思っただけだ。
誰もいないはずの執務室、久しぶりに天気のよかった昼下がり。
金の髪が窓から射し込む光に照らされ、淡く緩やかに煌いていた。
男はその髪に指を通して、それはそれは愛しそうに、眩しげな瞳で少年を見つめている。
指が頬を掠めるたびに、少年は擽ったいような顔をして、はにかむように微笑んでいた。
――ああ、やっぱりな。
ただ、そう思った。
何故そう思ったのかはわからない。ただ、そうなのかと思っただけだ。
そして不意に泣きたくなった。
このまま永遠に続くかと思われるようなその優しい光景に、胸を衝かれる想いがした。
変わらず続くものなどないと、誰より知った二人の代わりに。
決して泣く事などないだろう二人の代わりに、それを思って泣きたくなった。

あれは、まるで真四角のガラス。
透明だけど四角くて、儚くないのに脆いのね。
いつかそう言っていた、中尉の言葉を思い出す。
あの時は、何を言われているのかわからなかった。
大佐がエドをからかって遊んでいるのはいつものことだったし、エドがその手の軽口に食いつきがいいのもいつものことだったから、 大佐って思いのほか子供好きだったりするのだろうか、と意外な一面を垣間見た程度の感慨しかわかないくらいには、それは当たり前の日常の一風景でしかなく。
だから、彼女がぽつりと漏らした言葉こそが意表をつくものだった。
「彼らはああやって、互いの緊張を解しているのね」
「…どういう意味です?」
久しぶりに会ったから?だからといって、緊張を強いられるようなそんな危うい関係だっただろうか。この二人は。
今日もエドが扉をあけたその瞬間から、なんの違和感さえも伴わず。
まるで、ずっとそこにいたかのような。
「そうじゃないの。そうね、うまく言えないけれど…」
彼女にしては珍しく、頬に手を添えたまましばらく考えこむような仕草を見せた。
「相手が抱えているものの大きさを、彼らはそれをわかっているから。だからああしてじゃれ合って、互いの心を解しているのよ」
会えない時間、互いの心に降り積もった数々の鬱積を、つついて解して和らげる。
そうして解れた心の隙間に、互いの存在を溶かし合うのだ、と彼女は言った。

密やかに囁き合う声が、秘めやかに洩れ聞こえてくる。
光の中を男の手が舞い、その指先から金の糸が零れ落ちていく。
男はその一房を、この上ないほど大切そうに絡めとり、身を屈めてそっと静かに接吻た。
それは、敬虔なクリスチャンが神に祈りを捧げる姿にも似て。
うっとりと瞳を潤ませた少年は、震える腕で男の身体を抱きしめた。
黒と金が溶け合って、窓から射し込む光を弾く。

あの時はわからなかった彼女の言葉が、今ならわかる。
たった一人の強さを抱えて、きっと一人で歩いていける。
そんな彼らが、誰より互いを欲したわけも。

「なあ、大佐」
「ん?」
「俺達ずっと、どこまでいってもこのままさ。きっと重ならない道だけど」
「ああ…」
「それでも俺は、大佐の側にいたいと思うよ。こうしてずっといれたらいいと…」
「…鋼の」
「心の底から、そう願うよ」
「ああ、そうだな」

――それはまるで、真四角のガラス。
触れてみれば、角砂糖のよう。甘くゆっくり溶けるのよ。



決して重ならない道だろうが。と、彼は言い。
けれど君と寄り添っていたいんだ。とそう言って。
伏せた瞳をそっと眇めて、それはそれは優しく笑った。










モドル