本日は晴天なり。



本部。本部。応答せよ。
こちら地球。本部、応答願います。

放課後の学校は、賑やかなんだか静かなんだか、なんなんだかよくわからないような絶妙な空気を漂わせる巨大要塞だ。
昼間なんだか夜なんだか、薄暗くってよくわからない化学準備室は俺の絶好の隠れ家だったし、基地でもあった。

「…なんだ。また宇宙と交信してたのか?」
「あ、センセ」

化学教師のロイ・マスタング。
勿論、それは仮の姿で『先生』という名のコードネームを持つ、彼も立派な地球攻略部隊の一員だ。

「最近、本部が全然応答してくんねえ」
「そうなのか?」
「うん。今日は天気がいいからさー、絶対いけると思ってたのに」
「それは、天候に左右されるものなのかい?」
「そうじゃねえの?どうなんだ、そこらへん?アンタはどうよ?」
「…私、はどうかな?何しろ宇宙と交信したことがない」
先生は面白そうに笑っている。

その笑顔にいつまでも騙されると思うなよ。
どんなに問い詰めようとも、自分が地球攻略部隊のメンバーだとは決して認めないこの男が、
実は隊員ナンバー001の称号をもつ男だなんてことくらい、俺にはとっくにわかっているんだ。
001ってのは、まんまナンバーワンってことだ。つまり、一番すげえってことだ。
この男が001でないのなら、どうして俺が002なんだ?
001がこの男でさえなかったら、俺が001になれたのに。

「それはそうと、エドワード?」
「あ?」
「この間のテストの点数。化学以外はオール満点ってのはどういうわけだ?」
「なにが?」
「化学だけ赤点なんてな。なんのために毎日残って補習してたんだか。教える身として切ないよ」
「…さっぱりわかんなかったんだもんよ」
「ウソつけ。狙い済まして0点取ったろ」
正しい答えがわかってなければ、0点なんてそうそう取れるもんじゃない。
そう言って、大げさな身振りで天を仰ぐフリをした。

こちら地球。こちらナンバー002。
本部、応答願います。
細く開いた窓の隙間から風がそよそよ吹いてきて、茶色く変色しているカーテンをふわふわ揺らした。
相変わらず、本部からの応答はない。

「一体、何が不満なんだ?君は私に失業させるつもりか?」
「不満なんてねえし。…いいじゃん、別に。どうせ教師なんて仮の姿なんだから」
「…エド。ふざけて言っているわけじゃないんだぞ?」
「俺だって別にふざけちゃいねえよ?」
「――学園始まって以来の秀才なんだそうだ」
「ああ?」
「君には学園中の期待が集まっているんだよ」
「そんなオトナのジジョーなんざ、俺に関係あるかよ」
「…そうか。そうだな」

こちらナンバー002。本部、応答願います。
地球は今日も平和です。どうぞ。
本部からの返事代わりに、風に吹かれて骨格模型がカラカラ鳴った。

「今日は『戦略会議』しねえの?」
「ああ…、勿論やるさ。君に教えてあげられるのも、今日できっと最後だろうから」
「…は?」
「転勤が決まったんだ。…君式に言うと『任務地の変更』かな?」
「――なんで?」
「結果の出せない教師は要らないらしい」
「――…俺の、せい…?」
「いいや、違う。…そう、大人の事情ってやつだよ」
先生はそう言うと、優しい顔で微笑んだ。

こちら地球。本部、応答願います。
異常事態が発生しました。
こちらナンバー002。本部、応答願います――…。


***


『先生』がいなくなって、俺は『戦略会議』に参加することもなくなった。
テストで満点とれるやつが、補習をする必要なんてないからだ。
会議に出席しなくなってから、放課後『基地』に立ち入る権利も剥奪された。
いつだって俺のために開かれていたその扉は、今日も固く閉ざされたままでいる。
扉の前の廊下の窓から、空に向かっていつものように呼びかけた。

――こちら地球。本部、応答願います。

困らせたいわけじゃなかった。
ただ、一緒に居たかった。

――本部、本部、応答願います。
――地球は今日も平和です。どうぞ。

変わらず、本部からの応答はない。

――こちらナンバー002。001応答願います。
――地球は今日もいい天気です。そして、今日も俺は一人です。

返事の代わりに、風に吹かれて砂埃が校庭を舞った。
窓の外には、どこまでも続く青空が広がっている。








1月18日『ナンバー2の悲劇の日』

モドル