コイン3枚分の夢



ポケットの中を探っていたら、コインが3枚入っていた。
コイン3枚で一体なにが買えるだろう。
飴玉とか?
あ、チロルチョコなら3個も買える。
そう思った途端、頭の中がチロルチョコに支配された。
チロル、チロル…。
もう5軒も探し歩いた。でもまだチロルは見つからない。
こうなってくると、もう意地でもチロルチョコを食べないことには収まらないのが人ってもんだ。
地の果てまでも追いかけていってしまいそうなほどには、チロルが恋しい。
12軒目。
やっぱりここにもチロルがなくって、俺は段々悲しい気持ちになってきた。
もしかして、チロルチョコって製造禁止になっちゃった?
んなわけないよな。
この前訪れたセントラルの軒先で、俺は確かにみたもん、チロルチョコ。シオシオ萎えた気持ちを抱えながら、13軒目に向う途中、公衆電話が目に付いた。
この前、チロルを発見した時、懐かしいなあと言っていた、男の顔を思い出した。
コインを1枚投下して、掛けなれたダイヤルを廻してしばらく待つ。
「・・・もしもし?大佐?」
「ああ、鋼の。珍しいな、電話だなんて」
「大佐、あのさ…」
「どうした?なにかあったのか?」
「チロルが見つからないんだ…」
「…なんだって?」
「この町、どこにもチロルチョコが売ってねえの」
「…は?」
コインを1枚投下する。
ポケットの中にコインが3枚入っていたこと、そしたらチロルチョコが無性に食べたくなったこと、もう12軒も探しまわっているのに全然チロルがみつからないことを、延々大佐に話して聞かせた。
コインを1枚投下する。
「なあ、大佐。俺、どうしたらいい?」
「…鋼の」
「なに?」
「君は今、どこから電話を掛けているんだ?」
「どこって、町の公衆電話」
「そして、君の所持金は?」
「だから、コイン3枚…って、あ!」
「…この前見かけた、チロルチョコな?」
「………うん」
「あれを買い占めておこう。君のために」
「・・……うん」
「だから、今日は諦めて」
「・・……うん」
「君は一日も早く戻っておいで」
「・・……うん」
そう言って、電話が切れた。

チロルチョコに変わるはずの3枚のコインは、知らぬ間に大佐の声に変わってしまって。
どうしてもチロルチョコが食べたかった俺の気持ちも、知らぬ間になんだかすっかり落ちついてしまっていて。
なんだか急に憑き物が落ちたみたいな気分になって、俺はそのままおとなしく宿に帰って眠ってしまったのだけど。



その晩、俺は夢をみた。
3個じゃきかないほどのチロルチョコを沢山抱えた大佐が出てきて、俺の隣で笑っている夢だった。
それはチョコの香りに包まれた、甘く優しい夢だった。