思い出すのは。



夜空にポンと上がった花火を見て、綺麗だな。ってアンタが言うから。
アンタが熾す焔のほうが綺麗だと思うよ、と言ったら、アンタはとても複雑そうな笑顔を浮かべながら、黙って俺の肩を抱いたっけ。

今、夜空を明るく照らし出しているのは、あのとき見た花火じゃなくて。
雲間を縫って静かに灯る、まるで磨きぬかれた鏡のような丸い月。
街から僅かに離れた小高い丘の上に立ちながら、届くはずのない月に向かって手を伸ばした。
あの月の向こう側、閉ざされた空の向こう側。
思い出すのは、熾烈な赤い焔と、鮮烈な黒の髪。
アンタはよく俺の髪が綺麗だと、そう言っては愛でてくれたけど、
俺はアンタの髪の方が綺麗だって、言ったことはなかったけれど、本当はずっと思ってた。

丘から見下ろす街並みは、あっちもこっちもよく似てて、
街から溢れる光の元にアンタの姿を探すけど、そこにアンタはいないから。
俺はこうして空を見上げて、あっちと同じ月に向かって手を伸ばす。
思い出すのは、優しい声と、冷たい指先。
焔を操る男の指は、どういうわけだかいつでも少し冷たくて、肌にいつも心地よかった。

俺がもっと大人だったら、もっと他のやり方で。
俺がもっと子供だったら、もっと別の結末を。

泣くことも忘れることもできない俺は、ただ月に向かって手を伸ばす。
思い出すのは、穏やかに流れる愛しい日常。
アンタが隣で笑ってた、淡く揺れる花の日々。