ぴんぴんとボテボテ。



スイカを一玉丸ごと買って、中央司令部に遊びに行ってみた。
「ハローハロー。皆さんご機嫌いっかがー?」
「…随分とご機嫌だな、鋼の」
「あれ?」
むさい男連中が雁首揃えて夏バテ中。…っていうのを想像していたのに、そこにいたのはもっさりと椅子に座った大佐だけだった。
「人が足りなくね?…中尉は?」
「皆、出払っていてな。ここには私一人だよ」
「中尉も?」
「やけに彼女に拘るな…?なにか用事でもあったのかね?」
――いや、別に。
ただでさえ暑苦しい今日みたいな日に、むおっとした男連中に囲まれて大佐のお守しなきゃなんない、可哀想なホークアイ中尉にね。
「あー、これ。…お中元」
「ほう?私にか?」
「いや、ホークアイ中尉に」
「…おかしいだろう、それは」
「そう?」
階級は無視なのか、国家錬金術師。そもそも、君の上司は私だろう。とかなんとか。
大佐がごちゃごちゃ文句を垂れていたけど、大丈夫だよ?俺はそういう細かいこと気にしないタイプだからさ。
「細かい男は嫌われんぜ?大佐」
「…そうかい」
「つーかな。折角冷えたスイカ買ってきたのにな」
「今なら半玉ずつだな、鋼の」
「…せこッ!アンタ、そんなじゃ立派な大人になれないぜ?」
「はっ。これ以上ないくらいに立派な大人の男だよ、私は」
立派な、大人の、男、だよ。くらいに。妙に力を入れて言うあたりが子供だと思うんだが、どうよ?
「ふーん…。あのさ、大佐」
「なんだ?」
「大佐ってさー、美味しいスイカの見分け方って知ってる?」
「いきなりなんだ?まあ、一応知ってはいるが」
「へー」
「…なんだ、その疑いの眼差しは。・・・あれだろ?軽く叩いてポンポンって音がするのが、ちょうど食べ頃なんだろ?」
「そうそう。なんだ知ってんだな」
そのまま机を廻りこんで、椅子に座った大佐の膝に腰掛ける。
「当たり前だろう。私を誰だと思って・・・って、乗ってくるか」
「大佐はさ」
「ああ?」
「ボテボテ。絶対」
「なにが?」
「スイカって熟れ過ぎちゃうとさ、中の果肉が重力に負けちゃって下の方に寄ってくるわけ。んで、まだらにスカスカになるから、叩くとボテボテって音がする」
持ってきたスイカは叩くとポンポン音がする。
そのまま今度は大佐の頬を軽く叩いてみた。
「ボテボテ」
「―――よぅし、いい度胸だ。鋼の」
半笑いで、しかも目が笑っていない大佐が俺の頬をむにむに引っ張ってきて、それじゃ君はぴんぴんだなと言い張った。
若くまだ赤く熟れていないスイカは、叩くとぴんぴん音がするからだそうだ。
「子供め、子供め。おこちゃまめ!」
「なんだとぅ、こんのボテボテおやじが!」
「黙れ、ぴんぴん!」
「うっさい、ボテボテ!」
ぴんぴんボテボテ頬を引っ張り合っていたら、いつのまにか中尉が帰ってきていて、大佐と二人で正座させられた。
そのまま1時間近く説教されて、もうそろそろいい頃合ね、と中尉が冷えたスイカを切り分けてくれた。
どうやらスイカが冷えるまでの間、つなぎとして怒られていたらしい。
スイカが綺麗に切り分けられる頃には、大佐の執務室には見慣れた男連中もすっかり集まっていて、皆で一緒にスイカを食べた。
ちゃんとポンポン叩いて確かめて買ってきたスイカは、果肉が赤くて種は黒く、まさしく食べ頃だったらしい。
隣に座ったボテボテが、しゃりしゃりスイカを食べている。
果汁に濡れてテラテラ光った唇に、無償に噛み付きたい衝動に駆られたけれど、そこは気合で押し止めた。
スイカは甘くて冷たくて、盛る夏の匂いがした。
いつまでもこうして平和な時が、ずっと続いていくような気がした。
それは幸せな錯覚だった。