ice
『いいもの買ったからお家まで見に来てねv』
…じゃねーっつーの。野郎、どこまで本気だよ。
それに釣られてホイホイでかけてきちゃった俺も本当、どうだよ。
暑さは罪だ。簡単に人を狂わせる。
ノックしようとドアの前に立った瞬間、扉が開かれて、目の前に満面の笑みを浮かべた男の顔。
「よくきたな、鋼の」
「…まったくな。自分でもよくきたなと思ってたとこだよ」
通された部屋の、窓は全開に開け放たれていて、時折通り抜ける風にカーテンがフワリフワリと揺らされている。
「相変わらず暑いな、この部屋」
「まあ、夏だからな」
「この間買ったエアコン、まだ来ねえの?」
「明後日の配送予定だと。…こっちだ、鋼の」
「…あ?」
外も中も大して変わらぬ暑さにぼーっと突っ立っていたら、どこからか大佐の呼ぶ声がした。
「どこ?」
「寝室」
「…ああ、ヤリ部屋ね」
通称:ヤリ部屋と俺が命名した大佐の寝室は、幾らか風通しのいいリビングよりも少し奥まった場所にあり、昼間でもうっそり薄暗い。
「ほら、早く」
「んだよ。うっせ…。うおおおおお!?」
部屋のど真ん中に置かれたその物体に、俺は思わず感嘆とも動揺ともとれぬ叫び声をあげてしまう。
「凄いだろ?」
「なんだこれ。すっげ。マジすっげ!」
ハッハッハと得意げに笑う男は放置して、俺はその物体に駆け寄った。
「切り出し氷を買ってきたんだ」
「氷だー。でっかい氷ーv冷たくてきもちいーv」
「あまり抱きつくと、溶けて濡れるぞ?」
「かまわなーい!」
「子供だな…」
「なんと言われようが、かまわなーい!」
俺の身長くらいもある氷は、透明でキラキラしていて、抱きつけばその冷気に癒されて、幸せってきっとこんな形をしているに違いないと、俺はその時、本気で思った。
「喜ぶだろうな、とは思っていたが・・・」
「んー?なあに?」
「私をないがしろにしてまで、喜びまくるとは思ってなかった」
「あー、何?氷にヤキモチ?」
「…不本意ながら」
「あはは。じゃあ、これでどう?」
パン、と手を叩いて氷の柱を別の形に錬成する。
「…それは?」
「ん?大佐じゃん。大佐の形した氷。あー、キモチイイ」
「嬉しくない…」
「そう?大佐ぁ、あっはん」
「どうせなら、私にやってくれ」
「やだよ。大佐に抱きついたら、暑いじゃん」
「あ、腹立ってきた・・・。あれだな。燃やすかな、それ」
「へ?ダメだって、ちょ、オイ!なに本気モードになってんだよ」
「今日の火力はちょっと凄いぞ?鋼の」
「…バカか!?」
それから氷を巡って、二人で散々暴れまわって、気がついたときには氷は漬物石くらいの大きさになってしまっていた。
「ああっ…!縮んだ…ッ!」
「溶けただけだろ」
「俺の大佐がぁ!」
「…嬉しいんだが悲しいんだか、微妙なとこだよ。鋼の」
パンと再び手を打って大佐の形に錬成しようとしたら、大佐がそんな小さい自分は見たくないと言い出して、どうせなら私の可愛いJrの形に練成してくれ、それだったら幾ら頬擦りしても、なんなら咥えてくれても構わないだとか、切なくなるくらいにアホなことを言い出したので、それからまた二人でしばらく暴れた。
そんなことをしているうちに、氷はどんどん小さくなって、こんな小さい氷で大事なJrを錬成されてたまるか!とかなんとか大佐が喚き出したので、仕方がないから、氷を細かく砕いて二人で食べた。
砕いた氷はただ冷たいだけだったけど、それでもお互いの唇を冷やすには充分で、そのまま二人でキスをした。
シロップをかけずに食べるかき氷は、大佐のキスの味がした。
暑さは罪だ。簡単に人を狂わせる。