鳥と銀時計
「ネコは飼ってもいいけどね、鳥だけは飼うもんじゃない」
鎧の身体にネコを隠していたのを兄さんに見つかって、慌てて隠れた大佐の執務室、僕に隠れる場所を教えてくれながら、大佐がそんなことをポツリと言った。
どうしてですか?ってこれは小声で大佐に尋ねたら、大佐は溜まった書類に適当そうにサインをしながら、
「鳥は自由だからね。どこからか来て何処かへ去る。人が一生縛り付けていい生き物ではないような気がしてね」
と、のんびりとした様子で答えてくれた。
そんなことをいう大佐を、とても珍しく感じて、もっと深く聞いてみたいとそう思って口を開きかけた時、バンと大きな音を立てて扉が開く。
ぎゃ!兄さんだ!と慌てて、気持ち身を小さく隠れ直した。
「・・・ゥアールーッァ!」
「やあ、鋼の」
「大佐ァ、アルはどこだぁ!?」
巻き舌で僕の名前を叫びながら登場した兄さんは、もう絶好調で怒り心頭の顔つきだ。
ドカドカと歩き回りながら、僕の隠れてそうな場所を探しながら「出て来い、このヤロー」と喚き散らしている。
「どーこーにーかーくーしーたーぁ?」
あちらこちらを散々探し回って、どうにも僕を見つけられない兄さんが、痺れを切らして大佐に詰め寄る。
「どこにも?」
「嘘つけ!ここに駆込むのを俺は確かにこの目で見たんだ!」
「目の錯覚じゃないのかね?」
「んなわけあるか!あー、もう。どこだ、アル!出て来い、このヤロー!」
「そんな剣幕で怒鳴られては、出てくるものも出てこれないだろう?」
「やっぱ、隠してんじゃねえか!出せよ、早く!」
「隠してないよ。大体、あんなに立派な体格の弟さんを、一体何処に隠せると?」
「・・・う」
頭の上で、二人の会話が聞こえてくる。
大佐の机の下で身体を隠しながら、出るに出られず、今はひたすらじっと身を丸めることしかできない。
「っはあ…。わかったよ。他を当たる」
「まあ、待ちたまえ。鋼の」
根気負けした兄さんが、諦めのため息をついて、ああ、これでやっとここから出られると思った瞬間、大佐が兄さんを呼びとめた。
…大佐、なんて余計なことを。
「んあ?」
「ちょうどいい機会だからな、時計を合わせていきなさい」
「…またかよ?この間、合わせたばっかじゃん。あれから針が狂った気がしねえ」
「いいから、合わせていけ。忘れないうちにな」
「面倒くせーっ・・・!」
カチャカチャと、兄さんと大佐がそれぞれ、銀時計を取り出す音がする。
「準備できたか?」
「…うん。いいよ」
「15時、34分…29秒、30、31…」
「うん。オッケ」
「見せてみろ」
「ん」
「…よし」
パタと音がして、銀時計の蓋が閉められる。
こんな風に二人で時間を合わせていたことは、実はこのとき初めて知った。
兄さんの口ぶりからすれば、もうずっと以前からそうやっていたのかもしれない。…あれ?でも。
「大佐、時計狂ってませんか?」
壁時計と大佐の言った時間を見比べて、僕はうっかりそう口に出してしまっていた。
「…アルッ!?」
僕の声に耳ざとく気づいた兄さんが、その小さな身体の利点を最大限に活かしながら、僕の目の前に回り込んでくる。
「うわッ!」
「てめ!コラー、こんなとこに隠れてやがったのか!」
「ご、ごごごごめんなさい、兄さんッ!」
「んなろー!」
兄さんに引っ張り出されて、こんこんと説教されている間、大佐は楽しそうな顔をしながら眺めていた。
そんなこんなで、僕は聞きたかった鳥の話と時刻のずれた時計のことを、すっかり聞きそびれてしまったのだけど。
ただ一つだけ、世界がどんな時刻を告げようと、多分それとは無関係に、大佐と兄さんが持つ銀時計は、常に同じ時刻を刻んでいるということだけは知っている。