落雷
晴れているのに星が見えない。
雲がかかって月が見えない。
夜は漆黒の闇に包まれて、視界がきかずに頼りない。
直に空は光りを放ち、ゴロゴロと辺りの空気を震わせはじめた。
雷がなっている。
雨がふっているわけでもないのに。
兄さんが怪我をした。
それまでの過労と相俟って、医者に静養を言い渡された。
なんでもないと笑って無視した兄さんは、有無を言わさず閉じ込められた。
多分、大佐の差し金だ。
大佐が医者に云いつけて、部屋に閉じ込め、監禁させた。
「…あ。大佐?」
「悪い。起こしてしまったか?」
「いつ…?」
「ああ。今着いたばかりだ」
密やかな二人の会話が聞こえてくる。
部屋の明かりを灯さずに、視界のきかない暗闇で。
「熱は引いたか?」
「うん。もう平気」
「そうか。あまり無茶をするんじゃない」
「ん・・・」
暗闇の中でもさらりと光る、兄さんの髪が僅かに揺れた。
「…大佐」
「ああ・・・」
カッと一際空が明るく燃えて、地鳴りのような音が響いた。
近くに雷が落ちたのだろうか。
バリバリと空気の裂ける音がした。
その一瞬に照らされて、静かに触れ合う二人の姿が目に焼き付いた。
大佐が兄さんの髪に触れ、その耳元に唇をおとす。
擽ったそうに笑った兄さんは、大佐の髪に指を通し、愛しそうにそれを梳く。
――兄さん、それは罪の色だよ。
口に出せないいくつもの言葉が、胸の中で渦巻いている。
ねえ、大佐。
それ以上、兄さんに触れないで。
もう、兄さんに近づかないで。
いつか兄さんが好きだといった、貴方の髪は罪の色。
どうかもう、これ以上。
僕が愛した兄さんを、罪の色に染めないで。