禁断の果実



りんごの花の香りがする。
初めて彼と寝た後で、そう彼が呟いた。

「りんごの花びらを袋に詰めて、枕にするんだよ」
「あら、素敵ね」
「昔、母さんがさ。そうやって俺とアルの二人分、つくってくれたんだ」
「そう」

彼が私に求めるものは、母性という名の安らぎなのかもしれない。
何故、彼が私を選んだのか。何故、私が彼を選んだのか。
きっかけが何だったのか、はっきり思い出すことはできないけれど。
ただ二人は恋をしていた。
同じ男に恋をしていた。

「ねえ、りんご食べる?」
「ん?」
「皮、剥くわね」
「…へえ。剥けるようになったんだ?」
「練習したもの」

覚束ない手付きで林檎の皮を剥く私を、彼が面白そうな顔をして覗きこんできた。

「…手、滑らすわよ?」
「怖いなー」

大げさな身振りで飛びのいた彼が、楽しそうに笑っている。
いつからかいつも側には彼がいた。
きっかけが何だったのか、やっぱり思い出すことはできないけれど。
同じ男に恋をしていた。二人は同じ適わぬ恋をしていた。

「上手くなったねえ」
「そうよ。だって頑張ったのよ」

うさぎの形をした林檎を齧り、そうして彼が笑っている。
はじめて彼と寝た日の朝、あの日もこうして林檎を齧った。
二人で笑って林檎を齧った。

彼が私といるわけを。私が彼といるわけを。
それが何かはわからなくても。
どんなに恋に似ていても、きっとこれは恋ではなくて。
それでも二人の間には、静かに流れる愛がある。
それはきっと林檎に似せて、風に吹かれて漂うような。