永遠




「…さくらんぼの茎を舌で結べる?ええと…」
「アルだよ、兄さん」
「そう、アル」

1年前、戦争がおきた。
『国家錬金術師』として軍に所属していた兄さんは、他の国家錬金術師同様、戦場に駆り出され、そして大きな傷を負った。

「うーん。やったことないからわからないけど」
「そっか」
「うん。・・・でも、どうして?」

人の命を奪うことに最後まで躊躇った兄さんは、敵の集中攻撃にあったらしい。
敵に銃を向けられて、それでも兄さんは抵抗せず、ただ静かに佇んでいたという。

「さくらんぼの茎を舌で結べる人は、キスが上手いんだって・・・」
「あはは、そうなの?」
「うん。そうなんだって。だから、ええと・・・?」
「アルだよ。兄さん」
「ああ、アル、は結べるのかなって、そう思った」

全身を真っ赤に染めて戻った兄さんを見たときは、一瞬で目の前が真っ暗になった。
その赤が、兄さんが流した血ではないとわかった時の、あの安堵した気持ちは多分言葉では伝わらないと、僕は思う。
その血は、全て――。

「兄さん、そんなことよく知ってるね?」
「ん。前に、教えてくれた。…大佐が」
「…兄さん」
「笑って、そう言って・・・。アル?」
「…なに?兄さん」
「ねえ、大佐は?俺もうずっと、大佐に会ってない気がする…」
「大佐はいないよ。…もう、会えない」

その血は全て、大佐が流した血の跡だった。
敵に銃口を向けられて、無抵抗に立ち尽くした兄さんを庇ったのだと、人に聞いた。
大佐の血を全身に浴び、兄さんは心に大きな傷を負った。
なにか一つを忘れては、なにか一つを思い出す。
今日は僕の名前を忘れ、そして思い出したのは「さくらんぼ」

「・・・俺はどうして、躊躇って。俺はどうして、諦めて・・・」
「兄さん・・・」

あれから毎日、来る日も来る日も、兄さんは。
大佐を忘れ、そして大佐を思い出す。

「どうして、俺は・・・!」
「兄さん、疲れてるんだよ。…もう、休んだほうがいい」

そうして眠りについた兄さんは、
大佐を忘れ、再び大佐を思い出す。

来る日も来る日も、思い出す。