バンビ。
中央に向かう汽車の中で、キャラメルを一粒貰った。
後ろのボックスに座っていた幼い女の子と仲良くなってお友達になった印にと、俺とアルに一粒ずつ。
「お兄ちゃんたちに、これあげる」
「え?…ありがとう」
「キャラメルはね、最後までちゃんと溶かしてね。噛んではいけませんよ」
「あ、ああ、はい。わかりました」
小さく笑みが零れた。多分いつも母親にそう言われているのだろう。
*
「よう、エド」
「あっれ、中佐?」
「いいところで会ったなー、お前ついてるなー」
「…何が?」
「はい、これ。再会の記念にコレをあげようー」
「これって…、キャラメル?」
「そう!正解。…なんだよ?その目」
「いや…なんでいきなり?とかさ、なんの企み?とかさ、色々…」
「なんもねえよ、失敬な。まあ、強いて言えばアレだね。俺が食べられないから?」
「嫌いなの?」
「いいやー、好きだよ。寧ろ大好き」
「じゃ、なんで?」
「うーん。懐かしさに惹かれてつい購入したものの、最近どうもな…」
「うん?」
「下っ腹が気になる・・・」
「あー…、っははははは!」
「…お前そうやって思いっきり笑ってるけどな?そのうち来るぞ?気になりだす日はすぐそこだ」
「来ないよ。俺、若いし鍛えてるもん」
「俺だって鍛えてるし、まだまだ若いっつーの。…まあ、というわけだから、貰ってくれな?俺のバンビちゃん」
「…バンビちゃん、って…。名前つけちゃうくらい、好きなんだ…?」
「違うわ!なんだよ、その哀れんだ目は!…昔なー」
「ん?」
「俺が住んでた村ではなー、年に何回か映画がやってくるわけよ。
映画館とかなかったからさ、村の集会所とかそういう場所に」
「へえー」
「そこに友達とかと並んで見に行くわけだ。そりゃあもう、楽しみでさ。
んで、映画のチケットと一緒にコレ、な?くれるんだよ」
「キャラメル?」
「そうそう。一箱ずつ手渡しで。で、食べながら映画を見るわけ。辺り一面甘ーい匂いが充満して。…だから子供の頃みた映画の記憶は、常にキャラメルの匂いつきなんだな、俺の場合」
「へえ、面白いね。でもなんでバンビなわけ?」
「映画がバンビだったから」
「ああ、最初に見た映画だとか?」
「…いや。毎回来る映画がバンビだった」
「は?いつもバンビ?」
「そう、いつも」
「アッハハハハ…!」
「お前、笑うなよ。娯楽だったんだ、唯一の。…貴重だったんだぞ!?」
「あーうん。ごめんごめん。なるほどね、だからバンビ?」
「ああ。今日、街でな。バンビのポスターみたから、ちょっと懐かしくなった」
「バンビかー・・・。俺みたことないな。絵本でしか」
「そうなのか?」
「うん」
「じゃ、今度見に行くか。…付き合ってやる。保護者として」
「よっく言うよ。自分が行きたいだけじゃねえの?」
「まあ、いいじゃないか。…じゃ、また今度な。近いうちに」
「うん。またね、中佐」
「おう。…あ、おい」
「ん?」
「キャラメル。噛むなよ?ゆっくり溶かしてから食え?」
「…あのなあ」
「ハッハ!じゃあな」
*
「――バンビ。行き損なったなあ・・・」
「なに?兄さん」
「ん?いや、なんでもない」
汽車がゆっくりと田園風景を抜けて、街中へと進んでいく。
中央についたなら、映画館を覗いてみようか。
もしも、その映画が上映されていたのなら、一人で見るのも悪くない。
キャラメルを一箱買って。
甘い香りに包まれながら。