正気と狂気の狭間で。



自ら熾した、焔で。
一面焼き尽くされた、そこはかつて街だった場所で。
子供のように身を丸め、大地に蹲るお前を見た。

「…ヒューズ」
「ああ」

搾り出すように出された声は、地を這うようで。
いつも涼しげに響くお前の声は、一体どこへ行ってしまったのかと。
目の前の、非現実的な現実を見るともなしに、目に映しながら、
俺は、今は思い出せないお前の声を、記憶の中で探っている。

「何もなくなったな」
「…燃やしたんだ、俺が」
「すっきりしていいじゃないか」
「建物も人も。女も子供も、赤ん坊も…全部、俺が…」
「ロイ」

呼ぶ声にのろのろと顔を上げ、淀んだ瞳と視線があった。
怯えと絶望と、ほんの僅かな期待を滲ませて。
そんな目で俺を見るなよ。
俺に、救いを求めるなよ・・・。

「立てよ、ロイ」
「…ヒューズ」
「立てないか?もうお前、中央に帰るか?」
「…帰らねえよ」
「なら、立て」

なあ、ロイ。
俺はお前にかける言葉を持たなくて。
お前が思いもてあますその感情は、きっと誰しも持っている。
この狂った戦場で、正気を保っていられるやつがいるのなら、それこそが狂気だと。
たとえ、今それをお前に言ったとしても、そんなことは十分に、いやと言うほど十分に、お前もわかっていることだろうから。
だからそんな諦めた目をして、そんな泣きそうな顔をして、俺を見るなよ。

「…大丈夫だ」
「え?」
「大丈夫だよ。ロイ」

お前だけじゃないから。俺もきっと同じだから。

「…ヒューズ」
「なんだよ?」
「お前、泣くなよ」
「…泣いてねえよ。泣いてんの、お前じゃねえかよ」
「お前だよ」

そうして、どちらともなく腕を伸ばした。
ぶっ壊れた涙腺を止めることもできないまま、お互いの震える体を抱きしめる。
まだ大丈夫。きっと大丈夫。
そう繰り返しながら。

――正気と狂気の狭間で。