貴方がいる場所。



「…やあ、鋼の」
「こんちはー…って、え?なに、その憔悴ぶり」

3ヶ月ぶりに立ち寄った大佐の執務室。
今ではすっかり見慣れてしまった、いっそ懐かしいまでのその場所に。
なんだか知らんが、くたびれた男が一人。

「…私の記憶が確かならば。一昨日来るって言ってなかったか?」
「あー、うん。言った言った」
「じゃあ、なんで来ない?」
「いや、それがさー!途中の街で祭りやってて。なんだかとても楽しげだったので、ちょっとだけ参加しようかなーと・・・。いや、アルが。アルがね?そう言うもんだから。仕方ないじゃん?兄としては」
「…それならそうと、なんで連絡してこないんだ!」
「へっ?」

だらしなく椅子に腰掛けた男が、いきなり吼えだした。
あまりの急展開にちょっと驚く。
声を荒げられるほどの、俺はなにかをしただろうか。
そんなこと…。今までだってあっただろうに。

「大佐?」
「…電話なんて、掛けて来るから」
「なに?」
「いつもならば、なしのつぶての。それを、これから帰るだなんて、君が珍しく電話なんか寄越すものだから…」
「あ、うん。…迷惑だった、とか?」
「そうじゃない。…いや、いい。こっちの話だ。…それで?祭りで浮かれてくるほどの、それなりの成果は得られたと、そう解釈してもいいのだろうな?」
「…うっ!!」

それまでなんだかしょげているようにも見えた、男の態度がまた途端にエラソげになる。
いつもと同じ自信に満ちた、口の端でニヤリと笑う、男の顔。
今回もまた無駄足でしたーと、投げやりに。
そんな報告すらをも嬉しげに聞いている、…アンタ一体、どうしたの?

「あの、大佐?」
「なんだ?」
「…もしかして、情緒不安定?」
「バカ言うな。…いかに久しきものとかは知る。だよ、鋼の」
「は?なにそれ?」
「…わからなくて、いい」

そして不意に俺の手を取ると、薬指に噛みついた。

「痛え!いきなり何すんだよ!」
「…それで?今夜くらいはここに泊まっていくのだろう?」
「あ?!あ、うん。泊まってく」
「家においで?そして家から、また次の旅に出ればいい」
「・・・え?」
「おいで、鋼の」
「・・・大佐」

たとえば、それが。
この男がもつ特有の気まぐれだったとして。
それでも、俺は。
今となっては、帰る場所も旅立つ場所も、やはりこの男の元しかないのだろうと、そう思えば。

「朝飯くらいは、作ってやるよ」
「…是非、そうしてくれ」

楽しみだと、そう呟いた男こそが。



『これやこの 行くも帰るも 別れては 
――知るも知らぬも 逢坂の関』