Lover's Kiss



大佐って実はキス魔なんじゃないのかな。と、最近、俺は密かに思っている。

例えばそれは、誰もいない執務室だったり、
沢山の本に囲まれた図書館だったり。
ふとした瞬間、揺らぐ空気に顔を上げれば、掠めるように大佐の唇が降りてくる。
頬にキス。くすぐったくて目を閉じれば、瞼にキス。
不意に訪れるそれは、何事もなかったかのように去っていき、
そっと様子を伺えば、いつもと同じ無表情の大佐がいて。

「…大佐?」
「ん」

今もまた、いつもと同じ顔をして、資料やら報告書やらを読む男を目の前に、いつだって居た堪れない気持ちになるのは、決まって俺の方だけで。
俺にとってのキスとは、セックスと同等の意味を持ち、それ以外の状況で、大佐とキスをしたことなど、それまではなかったので。
セックスの時に交わすそれとは全く違う、啄ばむような接吻をおくられることに、俺は戸惑いを隠せないでいる。

「えーと…。俺、もう行くね?」
「ん」

やはりいつもと同じ、素っ気無い態度のままの男に、俺は背を向ける。

「鋼の」
「え?」

呼ばれて振り返れば、ネコの仔を呼び寄せるように、指先だけで俺を招く大佐がいて。
報告書に不備でもあったのだろうか、と若干の不安を抱えて男の元に戻ってみれば。
やんわりと髪を掴まれて、その髪にまたキスが降りてくる。

「あの、大佐?」
「ん」

そしてそのまま、唇に、キス。
ほんの少しの余韻を残して唇が離れていく。

「またな、鋼の」
「…うん」

そして俺は扉に向かい、外へと続く廊下を歩き、
アルが待つ街中へと足を運びながら、キスの意味を考える。
誰もいない執務室で、或いは本に囲まれた図書館で。
不意に降りてくる唇の意味を考えながら、唐突に思い至った、目の前にあるそのままの事実に、戸惑い、うろたえ、愕然とする。

――愛されている。