迷いの森。



「ねえ、兄さん」
「んー?」
「いつまで、こうしているつもり?」
「んー…」

この森を抜ければ、その場所が見えてくる。
まっすぐに続く道の向こう、明るくひらけたその場所に、今は静かに眠るあの人の。

「ねえ、兄さんってば」
「…ん」
「早くお参りに行かないと。きっと中佐、待ってくれてるよ?」
「・・・そうかな?」
「兄さん・・・」
「待ってくれてるかな。俺達のこと。…恨んでないかな」
「それは・・・」

先程から何度も繰り返された会話。
大きく伸びるその幹の根元に凭れ、足元に落ちていた枯れ枝を弄ぶ。
墓前に供えるべき花は、歩く途中でハラハラと、その花びらを散らしていった。
ここへくる道すがら、何度も立ち止まりかける兄を、どうにかここまで連れてきた。
しかし、森の中を続く道が終りかけたこの場所から、兄はその1歩をなかなか踏み出そうとはしなかった。

「いつまでも、こうしているわけにはいかないよ?」
「わかってる。・・・わかってんだよ、アル」

恨んでいるかもしれないと、だから僕達が弔いに訪れても、中佐はきっと喜ばない。そう兄は言うけれど。
本当は、違うのだろうとわかっていた。
兄の本心は別のところにあるのだと、わかっていた。
僕達は、中佐の葬儀を見ていない。
だから、中佐が死んだと聞かされて――
それを俄かに信じることが、どうしてもできないのだ。
なのに、墓石に刻まれた中佐の名前を見てしまえば、否が応にもその事実を認めるしかないのだと、兄はそれを恐れている。

「アル」
「…なに?」
「俺さ、俺・・・。あの人、好きだよ」
「うん。僕も」
「も、会えないのかな・・・」
「兄さん・・・。だから、ね?会いにいこう。中佐、きっと待ってくれてるから」
そして貴方のことが大好きだったと、あの人に伝えよう。
たぶん中佐は、そうか、と言って。
きっと、笑ってくれるから。
「行こうか、アル」
「うん。兄さん」
そして僕らは立ちあがる。
明るく光に満ち溢れる、この森の向こう側へ。