彼女が苦手とするところ。
大概器用になんでもこなす、彼女はエンピツを削れない。
「…中尉」
「なんでしょうか?大佐」
シャリシャリシャリ。
微かに音を立て、覚束ない手つきでナイフを操る。
律儀な彼女にしては珍しく、上官の呼びかえに顔を上げることもない。
「代わろうか?」
「なにをです?」
「それ、そのエンピツ削り」
そう言う上官の言葉を聞きながら、彼女はようやく指を止めた。
「いいえ、私の仕事ですから」
「そう。…使うのは私なんだがな」
「だからこそ、です」
そう言って振り向いた彼女は、思いのほか真剣な顔をしていた。
「貴方がこんな些細なことにまで、気をまわす必要はありません」
そのために私がいるんです。
そう言うと、再びナイフを持ち直す。
シャリシャリシャリ。
音を立て、エンピツが削られていく。
深く抉られ浅く撫でられ、とても不恰好な様子のままに、エンピツはそれでも少しずつ形を整え始めていた。
「そうか。助かるよ」
「いえ。お気遣いなく。ですから、大佐は大佐のお仕事をどうぞなさってください」
決して得意ではないナイフを握り、慣れない手つきでエンピツを削る。
どんな些細なことだって、貴方の手を煩わすなら、その全てを私は取り除いてしまいたい。その全てから貴方を守りたい。
拳銃を誰より器用に使いこなす彼女は、エンピツがうまく削れない。
シャリシャリシャリ。エンピツを削る音が静かに響く。
その音を聞きながら、ロイは彼女の不器用さを密かに愛しく思った。