そして僕は途方にくれる。



「好きだよ」
「ウソつき」
「嘘じゃないさ。君が好きだよ」
「もう、いいよ。」

アンタが言う『好き』って言葉は、ふわふわと羽が生えているように、あまりに軽くて信用できない。
例えばそれは、春よりは秋が好き。とか、クロワッサンよりもロールパン。その程度の重みしか持たなくて。
薄く微笑んだ唇の形のまま、アンタは好きだと繰り返し俺に言うけれど。
アンタの使う『好き』って言葉は、俺が知ってる『好き』っていう言葉の意味と酷くかけ離れている気がするので、とてもじゃないけど信用できない。

「好きだよ。鋼の」
「煩いよ」
「随分とまた頑なだな」
「もう黙れっての」

アンタが『好き』という言葉を使うたび、その言葉はどんどんと軽く実体をなくしていくというのに。
アンタはまるでその言葉しか知らない子供のように、何度も何度も繰り返す。

「好きだよ」
「だからさ・・・」
「心の底から、君のことだけ」
「…は?」
「愛しているよ。鋼の」
「・・・っ!」

それはあまりに不意打ちで。
アンタの口からその言葉聞かされたのは、初めてのことだから。
俺はアンタが言った「愛してる」の言葉の意味を、その重さを、俺が知ってるアンタの言葉の重さの基準で量ることができないでいる。

「君だけを、愛しているよ」

思いのほか真剣な眼差しと、差し伸べられた腕を見比べ、
急に高まる胸の鼓動と、ほんの少しの躊躇いを抱えて、
俺は途方にくれたまま、そっとアンタの腕を掴んだ。