温度差。



恋をしよう。と貴方に誘われ、
そうして私は、恋をはじめた。

二人きりになってしまえば、途端にだらしなくなってしまう貴方のことを。
こんな風に見つめていられる、自分だけに与えられた特別を思って、密かに悦に浸ってみたり。
かつて私の知らない誰かが、貴方のことをこんな風に見つめていたのかと思えば、突然に胸を掻き乱される、そんな気持ちを持て余したり。
そういう一つ一つが私の心を変えていき、ある日突然、
ああ、自分は恋をしているのだと、唐突に理解した。

恋をしようと貴方に誘われ、こうして恋をはじめたけれど。
自覚のなかった恋心は、知らないうちに随分大きく育ってしまって、
今ではもうその形全てを捉えることなど、私にはできなくなっている。

今こうして貴方がうたたねしている間にも、私の恋心はどんどんと膨らんで、いつしか貴方を追い越した。
穏やかな顔で眠る貴方を起こしてしまうにはしのびないから、今は触れられない貴方の寝顔に、瞬きだけでキスをおくる。
自分ですら捉えきれないこの想いの全てをこめて、瞬きの数だけキスをおくる。
見つめる視線に気がついたのか、貴方の瞼がピクリと動いて、そっと静かに瞳を開く。
不意に絡んだ視線の奥に、私は私に向けられた恋の在処を探すのだけれど。

恋をしようと貴方に誘われ、そうしてはじめたこの恋は。
いつしか私一人だけのものとなり、貴方の中に確かに存在していたはずの、恋の欠片を見つけることが今はできない。
それでもそっと微笑んで、私の顔に触れた貴方の指先が、優しく頬を辿るから、私は貴方の中にまだきっと恋の欠片は残っていると、それを信じて縋るのだ。

「…君は温かいな、鋼の」
「大佐の指は、冷たいね…」

そして私は目を閉じる。
この切ないまでの、温度差を。