星空のディスタンス
星が降ってきそうな夜空を見上げながら、
そうだ、手紙を書こう。と思った。
「ええと・・・。拝啓 ロイ・マスタング大佐殿。
こんばんは。いや、こんにちは?もしかしたら、おはようございますなのか?」
報告書ならば何度も書いたはずなのに、これが私信であると意識した瞬間、何を書けばいいのかわからなくなった。
「お元気ですか?俺もアルも元気です。・・・とか?」
うーんうーん。と唸りながら、何度も何度も書き直す。
「今日きた村はとても小さな村で、周りには何もありません。中央にあるような高い建物も、整理された道路もなく、交通手段は徒歩のみという田舎っぷりです。」
村唯一のこの宿に着くまで、ざっと1時間半。延々続く野原を見つづけ歩いてきた。途中、出会ったのは牧場のおじさんと、牛牛牛。
「たまに羊にもあいました。」
モウモウ。メエメエ。にーさーん。
この宿に着くまでに聞いた声は、たったの3種類。
「着いた宿は、これまた小さい宿屋で・・・」
客室一部屋のみという、宿泊客限定の宿だった。
「夕飯がすんげえ旨くて、カレーが特に絶品で。でも大佐のカレーの方が旨いかなー?結構いい勝負かも」
・・・怒るかな?カレーには絶大の自信を持っているみたいだし、
それにあの人、大人げないし。
「夜になって寒くなったので、窓を閉めようとしたら、空に星がたくさん見えて、きっとこんな沢山の星は、中央では見られないだろうと思ったら・・・」
急に手紙を書きたくなりました。急に逢いたくなりました。
「空を切り取って送ることはできないので、せめてこの綺麗な空気だけでも届くといいなと思います。それじゃ寝ます。エドワード・エルリック」
封筒に手紙を入れると、ありったけの空気を閉じ込めた。
丸くパンパンになった封筒に、どうにかこうにか封をする。
報告書に同封された、膨れた白い封筒。
届けばいい。そう思った。
満点の星空の下、いつでも貴方を想っていると。
***
「大佐。エドワード君から報告書が届いています」
それと・・・。と密やかに手渡された白い封筒。
「これは?」
「報告書に同封されておりました。大佐宛になっておりますので中身は確認しておりません」
「そうか」
幾分膨れた封筒の封を切ると、中に入っていたのは便箋一枚。
「・・・っは」
「どうされました?大佐」
自然と笑みが零れるのを隠しようがなかった。
「いや、なんでも。・・・そう、中尉。あの子はいつ帰ってくるのかな?」
「そうですね・・・。直に戻ると思いますが」
「そうか・・・。いや、なんでもないんだ」
訝しげな中尉を手で制し、封筒をそっと覗き込む。
そうやって、清清しくも凛とした、空気のかけらを吸い込んだ。
この街も直に夜を迎えるだろう。
街明かりが強過ぎて、君がみた星空をここで見ることは叶わない。
それでも、届けばいい。と、そう願った。
街灯に照らされた街中で、いつでも君を想っていると。