癖。



時間をもてあますと、やすりで爪を研ぐのがいつからか習慣になってしまった。

「おい。なあ、おいって」
「・・・んあ?」
「なにマヌケた声だしてんだ。それよりお前、それ止めたほうがいいぞ?」
「・・・どれ?」
「その、爪を噛む癖」
「爪?噛んでたか?」
「気がついてないのか?考え事してるとき、いつもカリカリ言わしてる」
「・・・ああ、そうか。いや、悪かった。煩かったか?」
「そういうことを言ってんじゃないんだよ」
ヒューズはロイの手を取ると、爪先をそっと撫でた。
「ホラなー。指先ガタガタになってる。傷になるぞー」
「・・・傷?」
「ああ。そんな指で撫でられたら、女が悲鳴をあげるぞ?『酷いわ!アンタとは二度と寝ないから!』って絶対言われるな」
「・・・それは困るな」
「だろー?だから止めとけ。折角綺麗な爪の形してんだし、勿体ねえよ」
「そうか。・・・気をつけるよ」

翌日、ヒューズから爪やすりを貰った。
ガラスでできた爪やすりには、とても繊細な柄が描かれていた。
送り主とのあまりのギャップに、散々笑ったのを覚えている。
最後の爪を磨き終え、ふっと息を吹きかけた。
送り主はいなくなってしまったが、ガラスのヤスリは今も失われずここにある。
親指で指先の感触を確かめる。
整えられた指先を見つめ、そういえばあれから爪を噛む癖はなくなったのだったと思い出す。

窓から差しこむ陽に光りに照らされて、ガラスのやすりがキラリと光った。