致死量に至る毒。



「来年の今月今夜、僕の涙で月を曇らしてみせる。ってな?」
「はあ?なんのギャグだ、そりゃ」
エドが腹を抱えて笑っている。
「今度こそ、うまくいくと思ったんだよなぁ」
「へーえ。そりゃまた、何を根拠に?」
映画館の受付嬢だったアマンダちゃんは、「価値観が違いすぎるの」と、そう言って俺をフッた。
「そもそもな?価値観って一体なによ?」
「そんなん、俺がわかるわけねえだろ」
エドは大して気もなさそうに、銀時計の鎖を弄んでいる。
「戦争だからって、人を簡単に殺めるような人は嫌い。ってさ・・・」
「…簡単に?」
「そう、簡単に」
ふん。と一つ、鼻を鳴らしてエドは笑った。
「可愛い子だったんだ、アマンダちゃん…」
「あっそ。でもまあ、価値観が違うってんなら、しょうがねえだろ?」
「まあなぁー…」
溜息をともに、咥えたタバコの煙を吐き出した。
「どうでもいいけどさ。アンタ、タバコ吸いすぎだ」
「ほっといてくれ。このままタバコの煙に巻かれて、ああ、死んでしまいたい…」
「…バカバカしい」
吐き捨てるようにそう言うと、わざとらしく灰皿の上で潰された、タバコの数を数え始めた。
「『タバコの煙に巻かれるような人は嫌い』って言われなかったか?アマンダちゃんとやらに」
「…それも言われた。そういえば」
「またもや価値観の相違だな。まあ、俺はアンタのそういうとこ嫌いじゃねえけど」
「どういうとこだよ?つか言ってくれ。褒めてくれ。俺を」
「褒めて、はちょっと難しいけど。そうやって自ら毒を体内に溜め込むあたり、嫌いじゃねえよ?」
俺も似たようなもんだから。
そう言って、鎖をチャラリと鳴らして立ち上がる。
「…お前にとっての毒ってのは…」
「さあ、なんでしょう?」
ベルトに結わいつけられた、銀時計が鈍く光を放った。
「なあ、エド」
「あ?」
「やばいわ、俺。…なんかお前に惚れそうよ?」
「…バカバカしい」
それこそ、価値観の相違だろ?
エドはそう言うと、笑って俺に背を向けた。