スピカ
進め。進め。茨の道を。
進め。進め。勇気をもって突き進め。
ようやく見つけた洞穴の入り口、こんもり盛られた土山の、
至る場所からにょっきり生えた、枯れ枝の形が妙に不気味だ。
たった一つの光源の、松明をかざして見てみれば、それはなんと人骨だった。
岩が風化したような、こんもり盛られた土山も、
木が朽ちているような、曲がって突き出た枯れ枝も。
いずれもすべて、人間の。
進め。進め。ほんの僅かに残された。
進め。進め。希望を求めて突き進め。
ようやく見つけた洞穴の中、壁面が青く輝いている。
手にした松明が不要なほどに、青くキラキラ輝いている。
苔がむして光を生じ、行く手を照らしているのだろうかと、
そっと壁に手をやれば、途端にはらはら落ちていく。
足元に舞い落ちたその光源を見てみれば、それは蝶の死骸だった。
壁面一色、先行く道を淡く照らす光源は、
命ついえた蝶たちの、光を弾く青き燐粉。
進め。進め。未知への領界、神の領域。
進め。進め。どれほど多くの犠牲を伴い、どれほどこの身を蝕まれようとも。
長く続いた洞穴の、道が無数に分かれている。
どの道を進めばいいのか、わからないほど無数に細く繋がっている。
正しい道があるとして、それを見分けるすべがない。
正しい道であるのかも、それを知りえるすべもない。
人骨を掻き分けて、蝶の死骸に行く手を照らされ、辿りついたこの分岐。
先はまだまだ遠いだろう。道はまだまだ続くだろう。
進め。進め。勇気をもって。
進め。進め。希望を求めて。
途方にくれて、思わず天を仰ぎ見る。
暗く続く洞穴の天辺に、あるはずのない夜空が広がっていた。
細く続く洞穴の道。頭上に瞬く一瞬の星。
もしも、星に願いをかけるとしたならば、俺は何を願うだろう。
あの星が、願いを叶えてくれるというのなら。
「…い。?おい、鋼の!」
「んあ…?あ?大佐…?」
「ああ…。大丈夫か?」
「は…?なに?」
「随分とうなされていたようだったが…」
「あー・・・。うん。変な夢みた…。そっか。夢か、あれ…」
夢と現の区別がつかないままに、朦朧とした視界の中で、心配そうに顔を曇らせた男の顔が目に映る。
「どんな夢を見てたんだ?」
「んー?…ダンジョン攻略、ドラクエ風」
「――は?」
「ちなみに俺、勇者ね」
「…そうか」
男はゆっくりとした仕草で、俺の額に浮かんだ汗を、勢いあまって零れ落ちたらしい涙を、そっと指で拭った。
――進め。進め。勇気を持って。
――進め。進め。希望を求めて。
「大佐」
「ん?」
「喉、渇いた」
「ああ、ちょっと待っていなさい」
そう言うと、俺に毛布を掛けなおし、静かに部屋を出て行った。
――数多の人骨掻き分けて。
――夥しく連なった、蝶の死骸に照らされて。
「大佐」
「ん?」
「寒い」
「ああ。…おいで」
そう言うと、俺の髪を梳いていた腕を下ろして、優しく俺を抱きしめた。
――どれほど多くの犠牲を伴い。
――どれほど、この身を削られようとも。
「…大佐」
「ん?」
「俺、眠…」
「ああ…。おやすみ」
そう言って、俺の額に接吻を一つ落として、微笑んだ。
進め。進め。勇気を持って。
進め。進め。希望を求めて。
目指す先は、未知への領界、神の領域。
どれほど多くの犠牲を伴い、どんなにこの身を削られようとも。
行く手を阻む困難に、途方にくれることがあっても。
見上げた夜空、必ず星が瞬いている。
あの星が、いつでも頭上で輝いている。
進め、迷うな。勇気を持って。
進め。僅かな希望を求めて。
どんなにこの身を削られようと、どんなに心を挫かれようと。
あの星は、いつでも頭上を照らしてくれる。
あの星が、願いを叶えはしなくとも。
見上げた夜空、あの星は。
いつでも愛に満ちている。